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「蟹の遊具」のマイクロノベル 他3篇 #69

 やっと見つけた。こんな姿にされていたなんて。蟹の遊具になってしまったあなたの眼を掴んで、甲羅に乗って揺さぶってみても、何も起こらなかった。愛おしく撫でてみたけれど、赤い鋏の手は冷たいままだった。嗚呼。

 カツラの落葉から、カラメルの甘い香りが立ちのぼってくる。これは「マルトール」という糖類が熱分解されたときにできる物質。目をつぶってごらん、あなたはいま大きなプリンの上に立っていて、さあ食べてあげよう。

 この足のマークの上に立ったら、絶対ダメだよ。いくら念を押しても、たいていその上に立ってしまって、どこかへ転送されて行くんだ。だから、何も言わない方が安全なんだ。ま、たまに消えてしまう人がいるくらいで。

 時間監視員だった祖父に頼み込んで連れて行ってもらったジュラ紀後期。アパトサウルスを身近に見たことは忘れない。でもあのとき、手袋さえ落として帰らなかったら、とこの恐竜の滑り台を眺めていつも後悔するのだ。


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