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すべては自らを成長させるため/中村優花②

心の拠り所を見出せず、迷走していた学生時代。
子どもを見る目を持つ指導者との出会いや巡り合わせで、
中村優花選手(コートネーム:ニニ)は自らの内にある光を放ち始めました。
高校卒業後に飛び込んだのは、当時、Wリーグ5連覇中のJX-ENEOSサンフラワーズ(現ENEOSサンフラワーズ)。
ENEOSはその後、リーグ連覇を11にまで伸ばします。
同チームには日本を代表する選手がたくさんいました。
今もレッドウェーブでともにプレーする宮澤夕貴選手でさえ、
当時は、さほどゲームに出場できていないほど。
そんな強豪チームの中で、中村選手は入団前から惹かれていた人物に会い、
自らのバスケット人生をより豊かにしていきます。

陽と陰を得られたことが私の財産

中村選手が惹かれていた人物とは、トム・ホーバスコーチ(現・男子日本代表ヘッドコーチ)です。
のちに女子日本代表のヘッドコーチとして東京2020オリンピックでチームを銀メダルに導く名将は、当時JX-ENEOSのコーチでした。
ホーバスコーチは、バスケットボールという競技に真剣かつ、まっすぐな情熱を全力で注ぎこむ人です。
ときに激しい言葉が向かってくることもありますが、
それもすべては選手のためであり、チームのためです。
彼には、そうしたゆるぎない信念があります。
中村選手も個人練習をしているときに「よく泣かされた」と笑います。
そんな経験を何度か繰り返したとき、ホーバスコーチがふいに、
「ニニ、間違っていたらごめんね。もしかして、昔いじめられたことある?」
と聞いてきたのです。
それを聞いた瞬間、中村選手の目から涙がこぼれ落ちました。
過去の嫌な記憶を掘り起こされたからではありません。
「自分と関わってくれる人のなかに、そこまで深く自分のことを見てくれている人がいるんだ、という涙だったんです」

中村選手は、いわゆる母子家庭で育ってきました。
それをネガティブに捉えてはいません。
むろん、嫌な思いがなかったわけではありませんが、
それでもまっすぐに向き合ってくれたお母さんに感謝し、
母子家庭だからこそ得られた経験もあると受け止めています。
それが今の自分を形成しているのだと。
一方でお父さんと離れ離れになってしまったのは事実です。
だからこそ、ホーバスコーチのなかに「お父さん」を見出し、彼の深いまなざしに涙を流したというわけです。
「人として、この人にはこれを言うべきだとか、自分の子どもよりも長い時間を共にしてくれて、選手個々に深く目を掛けられる人って本当に素晴らしいなと感じたんです。人としても尊敬するし、それを経験できたことは私にとってとても大きいんです。私にはお父さんが身近にいるという経験がなかったけど、お父さんみたいな存在です。そんなお父さんみたいな人に、バスケットでも全力のエネルギーをかけて教わったことにすごく感謝していますし、バスケットを通して、いろんな愛の形があるんだなと学びました」



もちろん支えたのはホーバスコーチだけではありません。
いろんな人に支えられて、さまざまな苦労を乗り越えてきました。
「これから先、誰か困った子がいたら、その子を助けるためにそんな経験しているのかなと思うくらいの経験をしてきました。ただ、それも、高校時代にエースとしてプレーした経験の後に、試合にまったく出られない、『陽と陰』で言えば『陰』をたくさん経験してきたからこそ、どちらの気持ちもわかるようになりました。それは私にとってありがたい財産だなって思っています」

セイムページで頂点を目指す

2021年、中村選手は富士通レッドウェーブに移籍してきます。
コートを縦横無尽に駆けるスタイルが自分にも合うと感じたからです。
「実際に入ってみても、3ポイントシュートが決まって乗っているときの盛り上がりや、ディフェンスからスピードに乗って走り込んでいくときの勢いを、ファンのみなさんと一体になって楽しめる感覚はいいですよね。それはレッドウェーブならではだなって感じています」
そのように言う中村選手自身は、元来、注目されることがあまり好きではありません。
今でこそ少し落ち着きましたが、若いころはフリースローのときに、静かになった会場で観客の目が自分にだけ注がれていることにさえストレスを感じていたそうです。

今はWリーグに入って10年目ですから、気持ちの入れ替えもいくらかスムーズにできるようになっています。
「だって、フリースローのときに注目するなって言っても無理ですからね(笑)」

間もなくレッドウェーブに移籍して2度目のプレーオフが始まります。
昨シーズンはファイナルまで勝ち上がりましたが、今シーズンはメンバー構成が若返り、またアクシデントも多く、苦しい状況が続いています。
だからこそ、中村選手の存在感がより増してくるのです。
「ルイさん(町田瑠唯)とアースさん(宮澤夕貴)と私は経験があるほうだけど、ほかの選手たちはプレーオフ上位で戦う経験がまだまだ浅かったり、年齢的にも若いところがあります。だからこそ、試合の中でどうしたらいいかというところを明確にして、みんながすぐにセイムページでやれるかが大事になってくると思います」
そして自身の役割について、こう話します。

「自分の生き方と一緒で、そのとき思ったことをすべて行動に移すしかないと思っています。終わってからああすればよかったという考え方は、プレーオフだとシーズンが終わってしまうので。いかに今までのことを踏まえてどうするべきか。そうしたキーポイントをもう一度準備して……もし相手がこうだったら、こうかもしれないというところまで念入りに準備したらいいのかなと思っていますし、私にできることがあればやっていきたいと思っています」



若いころからバスケットにのめり込んでいたわけではありません。
むしろ、いくつもの混乱に陥り、自らを粗末にし、壊れかけたこともあります。
バスケットの神様はそんな中村選手を見捨てませんでした。
道から逸れそうになるたびに、道を正してくれる人を彼女のそばに送りました。
自らを「思慮深いタイプだと思います。ただ、それが考えすぎてしまうことにつながることもありますが……」という彼女自身もまた、
破滅の道に突き進むのではなく、混乱から知性をうまく抽出させてきました。
「私はバスケケットが人生のメインだとは考えていません。
バスケットというツールを使って、どれだけ自分が成長できるかという見方をしているんです」

どこか、あの「世界の二刀流」の考え方と似ているかもしれません。
それが彼女の力強いプレーを生み、ファンを魅了しているのは間違いありません。
チームとしても多くのアクシデントに見舞われた2022-2023シーズンだったからこそ、
培われた中村選手の知性とパワーが、頂点を目指すうえでは欠かせないのです。



#22 PF 中村優花 Yunika Nakamura

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