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スキ7

81
noteに発表したショートショートのうちスキが7個以上ついたものをまとめます。お薦め作品集。
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2014年5月の記事一覧

組み立て親方

「うおーっ」
 とか、
「逆だったかー」
 とか、
「ねじ穴がー」
 とか、いろいろ絶叫したあと、ご主人は、本棚の組み立てを諦めたらしい。180センチといえば、電子ネズミにとっては、東京タワーのようなもの。手伝いようがなく、びすはご主人の半狂乱の様子をベッドの上からじっと見ているほかなかった。
 なんとか手伝いはできないかと考え、検索した結果。
 ぴんぽーん。
 ご主人は「なにか頼んだっけー」と言

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友、近場より来たる

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

「今日は友だちを紹介するでチュー」
 ん?
 びすの後ろから恥ずかしそうに顔(なのか?)を出したのは、真っ赤なミニカーである。
「ポルシェのポルくんでチュー」
「例によって杉並区役所のひと?」
「ひとじゃないけど、例によって例のごとくでチュー」
 杉並区のコンピュータの考えていることは、いまいちよくわからない。
「ポルちゃんは、いま、後学のため、杉並区内を

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届け物

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

 乾いた街を歩いていると、リュックの中にしのばせた水筒がなによりも心強く感じられる。
 水なら何リットルでも背負ってもいい心持ちだ。肩は痛いがもう慣れた。
 乾いた街には乾いた人たちが住んでいて、人間ここまで水分をなくしても生きていけるものかと不思議になる。
 声さえも枯れていて、砂を含んでいるかのようだ。
「旅の人よ」
 年齢不詳の男性が声をかけてきた。

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押し売り

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

 玄関のチャイムが鳴った。面倒くさいなあと思いながら玄関をあけると、扉を肩で押すようにして、ごつい男が押し入ってきた。トランクをどん、と床に置く。
「さあ、買ってくれ」
「なにを」
「よく聞いてくれた」
 トランクが自動的に開く。
「腹巻き。歯ブラシ。タオル。ねじ回し。十徳ナイフ、ゴム紐、膝当て。なんでもあるよ。まだ聞くか?」
「いや、いい。ほしいものはな

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芝居と喉飴

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

 はじめての芝居小屋へ行くために、知らない道を急いでいた。
 途中で喉が渇き、自販機にお金を放り込んだ。いつもコインを入れてから品物を選ぶ。
 しかし、その自販機には商品の展示がなかった。実物も名前も値段も。
 じゃあなぜ自動販売機かとわかったかというと、それらしい大きさをしていて、コイン投入口があったからである。
 ぱさっ、と軽い音がして、なにかが落ちて

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宣戦布告

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

 ポーン。
「杉並区は中野区に宣戦布告いたします」
 という回覧メールが杉並区から届いた。
 宣戦布告って。ええーっ。
「びすー。どうなってんだ」
 迷彩ヘルメットを被ったびすがひょいとポケットから顔を出した。
「戦争でチュー」
「まじで? なんで中野区と喧嘩になったんだ」
「漁業境界線の諍いでチュー。あれ?」
「それは岩手県と青森県が揉めてるやつだろう」

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近くからきたスパイ

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 チャイムが鳴ったので玄関を開けるとみるからに怪しい人物が立っていた。
 まだ夏休みも終わっていない季節だというのに、トレンチコートを着て、サングラスをかけ、帽子を被っている。よく町中を歩けたものだ。
「私はまっすぐな性格の男です」
「聞いてません。それよりあなたは誰ですか」
「名前は言えません。スパイですので」
「ご用件は」
「おたくに生息するハイテク小

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廊下のない街

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 本を読むのに一番快適な環境はどこだろう。
 わたしは電車の中だと思う。
 適度な振動、落ち着いたざわめき。
 眠くもならず、逃げ出すこともかなわず、活字に没頭できる。
 ホリデーパスのチケットを購入すれば、関東近郊の鉄道を一日中乗り放題だ。鈍行を乗り継ぎ、どんどん活字にのめり込んでいるうちに外が暗くなっていることに気づいた。
 時計をみると午後九時。朝の

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犬おじさん

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

 犬おじさんは一人ではない。
 いろいろな街にほぼ同時期に発生したと言われている。
 詳しいことを調査しようとした学者はみんな喰われてしまった。
 だから、ビルの最上階に住み、ぼんやりと街の姿を眺めていたぼくが報告しようとおもう。
 ぼくの街の犬おじさんは浮浪者だった。リヤカーにいろいろなものを積んで犬を三匹ほど連れて歩いていた。
 だんだん犬が増えてきた

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集票ロボット

「ピンポーン」
 面倒くせえなあと思いながら玄関のドアを開けると、テカテカと脂ぎった顔をした中年男が立っていた。
「どなたですか」
「私、今回、自民党総裁選に立候補いたしました、越知遊三郎と申します」
「はあ」
「ぜひとも私の政策をお聞きいただきたく、訪問させていただきました」
「あの、そういうことは、テレビでやった方がよくないですか。それに、私は自民党員ではありません」
「ん、党員ではない。では

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特典

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

「おおお」と声を出して驚いた。階段をのぼって、南阿佐ヶ谷駅から地上に出た瞬間である。
 そこにあったはずの、無意味に豪奢な杉並区役所が消滅し、でっかいラブホテルのようなものが建っていた。いったいいつの間に……
「せめてお城といってほしいでチュー」
 ポケットからびすの声が聞こえてきた。
「せめて、ということは、ほんとはなんなんだ?」
「王宮でチュー」
「…

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カウンターの中

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

 十数年ぶりに、学生時代にアルバイトをしていたジャズ喫茶を覗いてみた。当時のママは引退し、息子が跡を継いで店をやりくりしてた。
「よお、タケ」
 マスターは冴えない顔でコーヒーをいれてくれた。
「どうしたの」
「いや、べつに。なにも変わってないよ」
「奥さんは元気ですか」
「離婚した」
 変わってるじゃないかと思ったが、黙っていた。
「おまえヒマ?」
「こ

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怪獣時計

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

 腕に時計を巻くのが嫌な質なので、デパートに行くという妻に頼んで、懐中時計を買ってきてもらった。
「で、これはなに?」
「怪獣時計だけど」
「頼んだのは懐中時計」
「あっ」
 あっ、じゃないよ、まったく。
「ギャーッ」
 と時計が鳴いた。
「あ、六時だ。ご飯の用意しなきゃ」
「おい、どうするんだよこれ」
「飼育書、読んでおいて」
 マニュアルじゃないのか。

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本業

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

 目黒考次郎探偵事務所に猫探しの仕事が入った。
 三日前に家出したまま戻ってこないという。
「鳴き声もしませんか」
 と目黒。
「しないねえ」
 と飼い主。
 都内にあるとは思えない広い敷地の屋敷に泊まり込むことになった。といっても、屋内ではない。
 目黒考次郎は怪我をした獣のように庭の隅にじっと蹲っている。三日が経過し、気配はほとんど消えた。
 脳裏にペ

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