哲学堂

 わがまちには、哲学堂と呼ばれる土地がある。
 公園というよりは、あえて土地といいたい。
 というのも、そこを歩いているのはおとなばかりだし、みんな眉間にしわをよせているからだ。例外なく腕を組みながら歩いているのもへんだ。
 哲学堂ってなんなの、と聞かれても困るので、そこにあるものを並べてみよう。小川とか小径。階段。壁。板。橋。碑、像、泉。小さな建物……
 名前がいちいち恐ろしく、それはたとえば、門ひとつに常識門、小さな建物ひとつに絶対城などと名付けていることでもわかるだろう。
 通りすぎるたびにおとなはだんだんヤバい気持ちになるのだそうだ。
 道は上にいくほど狭く、険しくなり、後戻りがむつかしくなる。戻ろうと思っても、懐疑巷がその決断を邪魔する。
 上に行けば行くほど狭くなるはずなのに、入っていく人はいても出てくる人はいない。
 だからぼくたち子どもは入っちゃいけないと言われている。
 もちろん、入る気はない。
 哲学をしすぎた人は子どもに戻る。
 哲学堂から外界への唯一の出口は、屋上にあるカント幼稚園のエレベーターだけだ。
 ぼくは二度とあそこに行きたくない……

(了)

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