【SS】蟻の行列
ここは洞窟の中で、さっき地震があった。出口は埋もれてしまった。
観光地の鍾乳洞だから足下には板が渡され、照明もあったのだけど、いまは真っ暗。
非常に危険な状態なのにもかかわらず、つい数分前までの遊興的気分が抜けない。埋もれた出口の先には土産屋が軒を連ねていることを思うと、どうでもいい気分になってしまう。
携帯の電波は届かない。
たばこを吸う人がいなくなったので、ライターもない。
かろうじてわかるのは時間の経過くらい。
巨大なエレベーターの中に閉じこめられたようなものだと思うのだけど、それにしては救援が来ない。
外はどうなっているのだろう。なにが起きたのか。
暗闇は想像力をかきたてる。
昼も夜もなく、水をすすっては寝る。こまめに電源を切っていた携帯のバッテリーもついになくなる。
いつの間にか、人の数がずいぶん減ったようだ。
ずっと出口を調べていた執念深い男がぽそっとつぶやく。
「蟻なら出られるのに」
微かな光が見えるらしい。
減った人は、蟻になって出ていったのかもしれないな。
(了)
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