「この家も、そろそろやなあ」
「築何年？」
「うちの爺さんが30歳のときに買うて、80歳まで住んだやろ。これで50年。買った時にはもう中古だったっていうからなあ」
「せっかくローン組むなら新築にすればよかったのに」
「前のオーナーが大工さんで、いろんな隠し部屋を作っていたのが気に入ったらしい」
「それでか。狭いのに、なんだか部屋数が多い気がするんだよね」
「そうそう」
「二階建てなのに、階段五つもあるし」
「使っているのは、寝室と台所と仕事部屋とリビングだけだろ。これだけでも結構多いか。息子の部屋もあるしな」
「ときどき猫が行方不明になる」
「ああ。こあいだ一ヶ月失踪したときは餓死しかけとった」
「それが家の中で見つかるというのはねえ」
「とりあえず、部屋数だけでも調べてくるわ。そうせんと建築家の先生に相談もできん」
「あんた、方向音痴やねんから気をつけてや」
「あほ、家のなかで迷うか」
　夫は一ヶ月後、二階の階段の踊り場で、骨と皮の状態で発見された。

（了）