誰にも言えない
彼女といっしょに水着を買いに行った。
彼女は奥に飾ってあるビキニを気に入ったようだった。ところが、値札をみると、ほかの水着と一桁ちがう。「すごい水着」というポップも納得の価格だ。
「おいおい」
と、私は彼女を肩でつついた。
「値札値札」
彼女は、ちらっと目をやって、
「でも、ほしいーんだもーん」
といった。
くそ。水着を買ってあげるから海に行こうなんて誘い方をするんじゃなかった。
その時である。
店員が私にこそっと耳打ちした。
「海水に浸かると透明になります」
「よし、買おう」
彼女がすごい水着で砂浜を駆けて海に飛び込んだとき、店員の嘘がばれた。
しかし、それを彼女にいうことはできなかった。
(了)
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