賽子分裂

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

「入ります」
 助手は、生体サイコロをビーカーに放り込んだ。
 ビーカーは、白布の上に置かれ、あたりにはずらりと人相の悪い連中が居並んでいる。
「丁」
「半」
 現金が乱れ飛び、
「はい、ここまで」
 と、博士がストップをかけた。
「そろそろ分裂します」
 博士の発明した生体サイコロは、正六面体だが、数字はひとつの面にしか浮かび上がらない。
 三回分裂するのを待ち、数字の合計が奇数か偶数かを当てる。
 バイオ賭博の一種だ。
「動くな! みんな壁に手をつけ!」
 誰が密告したのか、警察の手入れが入った。
 博士は素早く白い粉をビーカーの中に放り込んでから手を上げた。
 分裂の制限回数を解除する加速剤である。
 警官隊が畳敷きの研究室に入り込んできたとたん、ビーカーの中からものすごい勢いでサイコロが噴き上がった。まるで宇宙の始まり、ビッグバンのように。
「逃げろ」
「捕まえろ」
「滑る」
「苦しい」
 大騒ぎの中、賭け金をもった博士はいち早く地下通路を伝って逃げた。あとに続く助手がたずねた。
「先生、ちょっとやりすぎじゃないですか」
「うむ。量を間違えた」
 どのくらい間違えたのかは、怖くて聞くことができなかった。

(了)

ここから先は

62字
この記事のみ ¥ 100

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。