近くからきたスパイ
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チャイムが鳴ったので玄関を開けるとみるからに怪しい人物が立っていた。
まだ夏休みも終わっていない季節だというのに、トレンチコートを着て、サングラスをかけ、帽子を被っている。よく町中を歩けたものだ。
「私はまっすぐな性格の男です」
「聞いてません。それよりあなたは誰ですか」
「名前は言えません。スパイですので」
「ご用件は」
「おたくに生息するハイテク小動物を渡していただきたい」
「びすのことですか」
「名前までは知りません」
「知らない人に友だちは渡せませんね」
「友だち?」
「そうですよ」
「ほんとに?」
「しつこいですね。ほんとですよ」
「わーい」
スパイの頭がぱかっと半分に割れ、なかからびすが顔を出した。
「うれしいでチュー」
「おまえ、なにしているの?」
「パワードスーツのテストでチュー」
「弱そうなパワードスーツだなー」
「まだ実験中でチュー。では、失礼するでチュー」
頭が閉まり、びすはどこかに帰っていった。
こう暑いと、ネズミの頭も多少おめでたくなるようだ。
(了)
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