【SS】胃袋の進歩と調和
拳銃で撃たれた。腹に命中して、穴があいた。あとで人違いと判明したのだが、撃たれた事実に変わりはない。
緊急手術が行われ、私は人工胃の人となってしまった。
医者が最新型の人工胃を取り付けてくれたおかげで、拡張オプションが使える。拡張胃、いわゆる別腹だ。
退院してすぐに、友だちが「快気宴会」を開いてくれた。
いやあ食った食った。機械任せだと思うと、いくらでも食える。
「おまえ、大丈夫か。退院したところだろ」
と友だちは心配してくれるが、人工胃の具合はすこぶる快調だ。
「さーて、デザートにいこうか」
「まだ食うのかよ」
「甘いものは別腹だよ。さて、女性のみなさん、スイーツをいきますよ」
私は大はしゃぎで言った。
トイレに行って、別腹を装着する。
フルーツパフェを目の前にして、どこからか声が聞こえた。
甘いもの苦手なんだよなー。
「え。誰かなにか言った?」
「べつに。なにも」
おまえなー、消化するのはオレだが、吸収するのは自分なんだぜ。ちっとは、体型のこと考えたらどーなんだ。糖尿病になっても、人工膵臓なんてないんだぜー。
こいつ、別腹?
そうだよ、オレは別腹だよ。オレはさ、甘いもんとか脂っこいものとか苦手だから、あんたが勝手に食いな。
「あれ、パフェ溶けちゃうよ」
「あ、うん。さすがにちょっと頼みすぎたかな」
「そうだよ。調子に乗りすぎだよ」
宴会は解散し、別腹がアルコールもイヤだというので、そのまま帰宅した。家に帰るまで、ずっーと嫌みを言われっぱなしだ。
取り外した拡張胃をよくみると、小さな文字で「成人病対策済」と書いてあった。
(了)
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