別途採用

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 まだ年も明けぬうちから内定取り消しが相次ぎ、たいへん厳しい就職状況となってしまった。
 もはや社員として入れてくれるところならどこでもいいので、どんな小さな会社でも求人情報誌に一行広告を出すだけで応募が殺到するという異常事態である。
 企業のほうも慎重で、これまでのような新卒重視から、即戦力、実績重視の方向に舵を切った。役に立つ人材を見つけたら即採っていこうということで、当初の募集枠はまことに小さい。
 そんな中で「ペット採用」の文字は目立った。
「おい、これ、別途採用の誤変換だよなあ」
「どう考えてもなあ」
「一応、応募はしておくか」
 選考会に臨んだ岡田と原田。
 まず岡田が部屋に呼ばれた。
 担当官は、テスト結果らしきものに見入っている。
「君は、言葉のほうに才能がありそうだ。日本語も英語も語彙が豊富だということはテストでわかりました。喋るほうはどうですか」
「口から先に生まれたと言われております」
「では、肝心な質問です。あなたは誰に飼われていましたか」
「えっ。まあ、あの、両親かと」
「うちはホスト業なんですがね」
「あああ」
 そんなことは書いてなかったじゃねえかボケと思いながら岡田は記憶を探った。
「ええとそういうことなら、大学の時に女子寮の智恵の部屋に二週間ほど潜伏していたことがありますが、あれが飼われていたということでしょうか」「知恵さん。上の名前は?」
「上野ですが」
「うちの顧客にいないかすぐに調べて」と面接官は言った。
 部下が端末を叩く。
「はい。おります。電話確認します」
 おーい、上野ー。と岡田は内心で思った。おまえ、この不況時にホスト遊びかよー。この試験に落ちたら、おまえんちに転がり込むからな。
「あ、上野知恵様ですか。こちら琉球王国でございます。ええ、岡田俊樹という者をご記憶ですか。ええ、ええ。わかりました。どうもありがとうございます」
 面接官は電話を切って言った。
「君、採用です」
 次は原田の番だった。
「君は誰に飼われていましたか」
 原田も戸惑い、しばらく沈黙していたが、やがて、ぽつりと言った。
「子どもの頃、宇宙人にちょっと」
「飼われていたんですか」
「ええとよくわかりませんが、宇宙船で暮らしていました」
 面接官は部下と顔を見合わせた。
「それは宇宙人ということでは」
「そうかもしれませんが、放り出されてしまいましたし、地球で食っていかなきゃいけませんし」
 記憶をさぐるうちにどんどんいろいろな思い出が蘇ってきた。
「あ、その前には熊に育てられていた覚えがあります。わらの匂いに記憶があります」
「君はいつ人間の社会に帰ってきたんですか」
「小学校の高学年くらいだったと思いますが、あっ、あれは人の家で飼われている犬に世話になってたんだっけ」
「おい、すごいな。本格的な人が来ちゃったよ」
 と面接官は言った。
「君。君の器は大きすぎて、私じゃ計りきれません。とりあえず採用しますが、三ヶ月は試用期間ということでいいですか」
「はい。ご主人様」

(了)

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