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バスに乗って

 散歩中に雨が降ってきたので、コミュニティバスに乗った。
 狭い地域内を循環している低価格なバスである。車体が小さく、昇降口も地面すれすれにある。
 あまり大きな道路は走らず、抜け道専用といった趣さえある。私道みたいなところにもどんどん入っていく。
「次は建築湯。次は建築湯」
 誰も降車ボタンを押さなかったので、煙突のある建物は後ろに流れていった。
 どこか地下鉄の駅があったら、そこで乗り換えて家まで戻ろうと算段していたのだが、メジャーな交通機関から取り残された地域ばかりを回るらしく、一向に見知った場所にでない。
「次は終点、バスの墓場。バスの墓場」
 見回すと、乗客はいつの間にか私ひとりだ。
「運転手さんっ、また折り返しますよね」
「あー、このバスはここまで。これが最後のご奉公でね」
 橋を渡った。どこの川だろう。
「いまのが黄泉の川だよー」
 バスの墓場駅は、湿原の中にある大きな駐車エリアにあった。
 門から出ていくと、朽ち果てた看板に「天国にようこそ」と書いてあった。

(了)

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