心霊科希望

「あなたこの頃だんだん影が薄くなってきたみたい」
「いやなことをいうね」
「いや、存在感とかそういう意味じゃなくて」
 わたしは背後を振り返って、自分の影を見た。家の中ではよくわからない。
 薄いと言われればたしかにそうかもしれない。
「病院に行ったほうがいいんじゃないの?」
「何科に?」
「うーん」
 とふたりで唸り、抛りっぱなしにしているうちに、とうとう影が消えてしまった。
「おれって透けてる?」
「そう言われれば、そうかも」
「これは何科に行けばいいんだ」
 またしても唸っているうちに、すっかり透明になってしまった。
「もうダメかも」
「えっ、なにか言った?」
「ダ・メ・か・も」
「声、小さすぎる」
 声も消えてしまって、わたしはわたしがここにいることを示すことができなくなってしまった。しまった。ここまで来ては病院に行っても存在すら認知されないだろう。手遅れだ。
「で、あなたは、いま旦那さんが隣に座っているというんですね」
「はい」
 妻はぶじ入院できた。精神科だけど。

(了)

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