夢の代償

玄関のチャイムが鳴った。
「えー、おせんにキャラメル、精神分析はいかが」
「またおかしなやつが入ってきたな」
 びすはポケットに隠れたままだ。
「わたくし、あやしいものではございません」
「ばりばりにあやしい」
「夢が必要です。夢をください」
「なにいってんだ」
「あなた、寝ているときに夢みませんか」
「みるけど、忘れるよ」
「覚えているでチュー」
「お。なんだ。おまえは」
 精神分析野郎はファイティングポーズをとった。
「ネズミのくせに喋るとは」
「夢も見るでチュー。昨日の夜は、イチローにホームランを打たれたでチュー」
「誰が」
「よく知らない外人のピッチャーでチュー」
「それだけ?」
「ボールの上に乗っていたので、すごく怖かったでチュー」
「そのボールは自分自身だ。そんな夢をほっといたら死んじゃうぞ」
「チュー」
 びすは震え上がった。
「そうならないためには、悪夢を捨てるありがたい壺を買いなさい。いまなら特別価格で……」
「帰れ」
 と、蹴り上げるとガキッと機械音がして、そのちょっと後で壺の割れるガチャーンという音が響いてきた。
 ドアを閉めると、
「またダブリン社でチュー」
 とびすが言った。
「だいぶ悪質化しているな」
「そのうち聖書を売りに来るでチュー」
「中味がロボット三原則だったりしたら笑えるんだけど」
「あの会社が守るわけないでチュー」

(了)

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