押し売り

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 玄関のチャイムが鳴った。面倒くさいなあと思いながら玄関をあけると、扉を肩で押すようにして、ごつい男が押し入ってきた。トランクをどん、と床に置く。
「さあ、買ってくれ」
「なにを」
「よく聞いてくれた」
 トランクが自動的に開く。
「腹巻き。歯ブラシ。タオル。ねじ回し。十徳ナイフ、ゴム紐、膝当て。なんでもあるよ。まだ聞くか?」
「いや、いい。ほしいものはないから帰ってくれ」
「帰ってくれと言われて帰ったんじゃ、おいらの商売は成り立たないんでえ」
「びす、これもあれか。ダブリン社の」
「押し売りロボットでチュー」
「お、このちびっこネズミめ。よくもひとのことを押し売りなんぞと。ま、そのとおりだけどな」
「警察を呼ぶよ」
「呼んでみなよ。おいら、ぜってえ動かねえ。無理やり動かしたら自爆だ」
「ほんとみたいでチュー」
「なにか見えるのか」
「腹巻きのなかにダイナマイトが見えるでチュー」
「どうすればいいんだ」
「決まっているだろ。買えばいいんだ買えば。どうしても金がないなら、ここに次に行く場所を入力しな。そうしたら帰ってやるよ」
「ちょっと待て」
 私は携帯で住所を調べて入力した。
「ばーか」と押し売りは言った。
「交番の住所じゃねえか。そんなしょぼいひっかけにかかるおいらじゃねえ。これでもデータベースは完璧でえ」
「じゃ、ネズミ小屋をくれ」
 ロボットはネズミ捕りを取り出した。
「こら」と私は怒った。「誰がネズミ捕りを出せといった。ネズミの家だよ家」
「うーん」
 とロボットはうなった。
「ちょっと待ってろコノヤロー」
 翌日。
 押し売りロボットはほんとにネズミ小屋を持ってきた。無骨な手作りだが、ちゃんと小さな布団と枕が用意してあるところが泣ける。
 5000円で購入。
 パソコンの上においてやると、熱がじんわり伝わるらしく、「床暖房みたいでチュー」とびすは喜んでいる。
「あの押し売りまた来るかなあ」
「わからないでチュー」
「ダブリン社にしてはいいやつだったな」
「ロボットもみかけによらないでチュー」

(了)

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