【ショートショート】缶詰考
「明日はなんにも用意しなくていいからね」
とキャンプ友だちのタツヤは言った。
朝六時、俺は約束通り手ぶらでやって来た。
タツヤは車庫の前で待っていた。
SUVの後部座席になにかでかいものが積んである。
おれたちは出発し、二時間ほどで山奥のキャンプ場に到着した。すぐ横にきれいな渓流が流れるいい穴場である。
「おい、手伝ってくれ」
気になっていた円筒形の荷物を下ろす。ごろごろ転がして、平地でえいやっと立てた。
「で、このデカブツはなんだい?」
「ふふっ。これこそがキャンプ場の缶詰だっ」
「……」
おれの反応が薄いので、タツヤはちょっとしょげた。
「画期的だと思ったんだけどなあ」
「この中に全部入ってるの?」
「うん」
「じゃあ、あけてよ」
ポケットをごそごそ漁っていたタツヤの顔色が変わった。
「缶切りがないっ」
「えっ。じゃあ、どうなるの」
「缶切り、持ってない?」
「あるわけないだろっ」
それからだ。おれがどこに行くにも缶切りを手放さないようになったのは。
(了)
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