新製品発表会

 新製品の発表会に遅れた。
 ふだんは企業の講習会に利用されているという会場は、テーブルが階段状に配置されている大きな箱だ。
「あれ」
 まだ始まっていなかったのか。
 三百人ほどのビジネスマンが、じっと講師の登場を待っている。
 待ちすぎじゃないの?
 時計をみるのにも疲れて、あたりを見回すと、さかんにうなずいている者がいる。居眠りしている者がいる。あろうことか、メモをとっている者さえいる。
 まるでセミナーが白熱しているかのようだ。
 ひとりポカンとしているうちに、司会者が登場してセミナーが終了した。
 私は呆然として、配布されていた資料とペットボトルの水をもって帰った。
 水は夜、眠るまえに飲んだ。
 わああああ。
 脳内で、華麗なセミナーが始まった。
 これが肝心の新製品だったのかっ。
 それなら最初に説明してくれたらよかったのに、と思った瞬間、自分が遅刻したことを思い出した。

(了)

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