悪魔祓い

「神父さま。神父さま。悪魔祓いをお願いします」
「どうしました?」
「妻に悪魔が取り憑きました」
「小遣いをくれないとか?」
「おふざけになっては困ります。牙が生えたのです」
「おお」
「全身真っ黒な毛に覆われました」
「それはたいへんです」
「気に障ることがあるとすぐにひっかくし、朝になると首を噛むのでおちおち眠ることもできません」
「ぜひ様子を見せてください」
 十字架をもった神父さまを家に案内した。
「これが妻です」
 神父さまは沈黙したあと、言った。
「これは猫じゃないでしょうか」
「猫が取り憑いたのでしょうか」
「いえ、ただの猫だと思います」
 そこに妻が帰ってきた。
「わっ、おまえ、どこへ行ってたんだ」
「ともだちと旅行よ。ちゃんと言っておいたはずだけど。なにこの十字架の人」
「神父さまだよ」
「この方が『妻に悪魔が取り憑いた』と言い張りましたもので」
「なんですってー」
 みるみる妻の口から牙がはみ出し、全身は剛毛に覆われて……

(了)

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