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【ショートショート】婚活屋敷

 田舎の母からまだ嫁にいかないとかと言われ続けて十年。ずっと無視していたら、
「父危篤」
 という時代がかった大嘘で呼び戻され、いきなり放り込まれたのが埃っぽい大きな屋敷。ただし、窓はベニヤ板で閉め切り、扉にも外から鍵がかかっている。怖いったらありゃしない。
 顔の半分を包帯で覆った男に出会ったときは、思い切り叫びそうになった。いくつもの手が私の口を覆って、黙らせてしまったけど。
 包帯男は、わたしに紙を渡した。
「婚活屋敷へようこそ」
 と書いてある。
「婚活?」
 また紙が来る。
「ここにいる男は全員独身です」
「口で喋りなさいよ」
 包帯男は後ろを向いた。シャツに「すみません」と書いてあった。
「あなたの婚活がうまくいきますように」
「ちょっとちょっと待ちなさいよ」
 わたしは走って追いかけ、わらわらと逃げ回る男のひとりを捕まえた。
 自慢じゃないが元陸上部だ。
 捕まえた男はまるでネズミ男のようで、恐怖のあまり「ひひひ」と笑った。わたしのどこがそんなに恐ろしいのよっ。
 男はおそるおそる紙を差し出した。
 そこには、細々とした禁止事項が書いてあった。

 以下の事項を禁止いたします。

・夫をゴミ扱いする
・夫にゴミを食わせる
・夫をゴミ箱にする
・夫をゴミ回収に出す 
・夫を庭に埋める
・不要な夫を溜め込む

 なにかよほどのことがあったらしい。
 逃がしてあげることにした。
 それにしても、こんな男たちが結婚相手になるわけないじゃないの。
 わたしはここでなにをしたらいいんだろう。

(了)

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