杉並フォーン

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「新しいスマートフォンのオススメです。杉並区はアイフォーンを推奨します」
 区役所からメールが来た。
 なんだこの嫌がらせは。そりゃあ、オレもアイフォーンはほしいよ。だけど、高くて、手が届かないよ。
「毎月、区からの補助金が一万円出ます」
「えっ、なんだって」
「これなら買えるでしょう」
「買える買える。乗り換えちゃおうかなあ」
「そのかわり、補助金が出るのは杉並フォーンだけです」
「え」
「中身はアイフォーンですが、杉並区内でしか使えません」
「そんなバカな」
「Apple様にお願いに上がったところ、もう通信会社と契約したから無理だと」
 様かよ。
「仕方がないので、収益の五割を上納し、かつ、高速回線網は杉並区が自腹で構築する、通話範囲は杉並区内に限るということでお許しを得ました。だから、これはソフトバンクやauのアイフォーンではなく、杉並区の杉並フォーンなのです」
「ちょっと名前がダサくないか」
「シャラップ」
 それにしても、よくAppleが許したな。
「あ、ちょっと待て。あんたコンピュータだろ。どうやってお願いに上がるんだよ」
「電子マウス千匹で陳情団を結成し、一斉に土下座を」
 殺気を感じて逃げようとするビスのしっぽを捕まえた。
「おまえ、そういう面白い話があるなら言えよな」
「NDAでチュー」
 そういうわけで、私はいま杉並フォーンユーザーだ。
 使えるかって? 野暮なことは聞いてくれるな。杉並区を一歩出たらどこにもつながらないスマホが役に立つわけがない。
 ただ、圧倒的に安い。
 荻窪あたりでアイフォーンを使っているやつがいても、それはきっと杉並フォーンユーザーだよ。

(了)

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