「あなたっ、大変っ」
　妻がチラシ片手に駆け込んできた。
「どうした」
「インサイトが1万2000円ポッキリだって」
「いくら給付金特需だといっても、それはダメだろう。200万のクルマを1万2000円にしてどーするんだ。原価割れどころじゃないだろ」
「そうねー。じゃあ、このチラシはなんなの」
「ちょっと見せて」
　チラシには「インサイト」「1万2000円」とはっきり書いてある。写真はインサイトそのものだ。しかも、ホンダ製と書いてある。
「おかしいなあ。型落ちや欠陥品としても安すぎるよ。これ、うちの近くにだけばらまいているチラシ？」
「郵便受けに直接入っていたからそうかも」
「ってことは、これ買って、Yahoo!オークションで売れば大儲けか」
「やりましょうよ。損して元々」
　で、我が家にインサイトが届いた。
　ただし、極小の。写真だから、サイズまではわからなかったのだ。
　まるでプラモデルのようなパッケージにはごく小さな文字でネズミ用と書かれている。
　びす、大喜び。コンセントから充電して、家中を走り回っている。
　うちの近所ってことは杉並区一帯だということにはやく気づくべきだった。

（了）

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