20歳記念のノンアルコールビールは犯罪的にまずかった

先週の金曜日に無事23回目の誕生日を迎え、酒が飲める年齢となった(23回中3回は全日本誕生日妨害連合により年齢加算が無効となったため)。しかし、私は死んでも酒は飲まんと心に誓っている。アルコールなんてタバコや麻薬と変わらん、というのが私の考えであり、つまるところアルコールなんてものはタバコや麻薬と変わらないのである。得られるのは一時の快楽や楽しさだけ、そしてその代償は依存や依存症と、大きすぎるのだ。

しかし、酒が飲める年齢になった記念にしようと、今日私は近所のスーパーでアルコール0.00%のノンアルコールビールを購入した。近所のスーパーは明かりが蛍光灯ではなく、あまり明るくない赤のLEDライトのみで異様な雰囲気、値札の文字も読みにくくて困る。また季節を問わずつねに暖房がかかっており、この日の店内温度は105度、店内音頭はドラえもん音頭だった。氷もとけて水になってしまうほどの熱気のなか、両手にパックの明太子(このスーパーは売り場面積の7~8割が明太子&たらこ売り場であり、その面積は月の満ち欠けによって変動する)を持ちながら白目をむいて「ドリランパリラン、西の琵琶湖にゃ角が立つ、ドンニャコンニャ、ハンジョウセ、ハンジョウセ」と金切声で歌いながらキレキレのドラえもん音頭を踊り続ける主婦たちをスルーし、大人用ブーブークッションの隣に陳列されていたノンアルコールビールを手に取る。まずかったので銘柄は書かない。
つまみ用に柿の種と食用USBメモリも確保し、レジへ向かう。このスーパーのレジは5つあるが、うち2つが女性専用、2つがサングラスをかけてアロハシャツと短パンを着用し下駄をはいた男性専用なので、どれにも当てはまらない私が並べるレジは一つだけ。そこそこ並び、隣の列で下駄を口からゲロゲロとはいているアロハシャツの男性を横目に、髪の毛に特殊な緑色の放射性ジェルを塗った末(このスーパーの買い物客はそうする決まりだ)、ようやくレジで精算をして初ノンアルビールを手に入れることができた(水曜日ということもあり店員がレジのバーコード読み取り機で頬を殴ってきて不快だったのはマイナスポイントだが)。
無事買い物が終わっても、出口で待ち構えている青い全身タイツを着た筋肉モリモリの門番(草彅剛と竹中直人を足して2で割った顔)が出す6つのなぞなぞに正解しなければ店から出られないのがまたこのスーパーの面倒なところ。問題と答えは割愛するが、無事答え切って店を出た瞬間、何とも言えない気持ちになった。ドキドキとむなしさとまろやかさが混ざった感情というか、あれほど嫌悪してきた酒の類似物をとうとう買ってしまう日がくるとは…本当に買ってしまっていいのか、この私が…しかし、これも大人になったというあかしだな…少し前までは小学生だった気がするのに、もう20歳か…20歳になったという実感は、友達からの誕生日おめでとうのLINEではなく、ノンアルコールビールを買うことで初めて得られた(パッケージに、20歳以上の購入を想定していますと書いてある)。

無事自室に帰りつき、買っておいた牛丼をもしゃもしゃ食った後、風呂に入り、風呂から上がってまた風呂に入りを83回繰り返し、ようやくその時がやってきた。ノンアルコールとはいえ、私は今からビールを飲むのだ!
しかし、期待に胸を膨らませていたわけでは決してなかった。というのも、ビールは幼稚園のときに1滴だけ祖父にふざけて飲まされたことがあり、これが子供心に「苦くてクソマズイ!」と思うような味だったからだ。まあ、今はあれから10年以上もたって味覚も大人になっているし、少し前には子供のころには飲めなかった微糖コーヒーをおいしく飲めるようになったのだから、きっとビール(ノンアルだけど)も飲めるだろう…そう淡い期待を抱いて缶を開け、噴き出す泡をティッシュでふいてビールを口に含んだ瞬間、驚いた。こんなにマズい液体を販売していいのか!
缶の口を口に近づけると、「ビール臭い」としか形容できないちょっといい香りがほのかにただよってくる。まあ麦ってこんなもんだ。ここまではいいのだが、口の中にビールの液が入った瞬間、全身の細胞が猛烈に拒否反応を示した。苦いだけじゃない、ただひたすらに「まずい」。今まで眠っていた、第六の味覚「まずみ」を検知する味蕾の細胞が、満を持して活動しはじめたかのようだ。なんというか、風邪薬と腐らせた紅ショウガを混ぜたものを液体化したような、不快な苦みと不快な酸味と不快な謎味の絶望的なハーモニー。幼稚園のころ舐めたビールよりもはるかにまずく感じる。これはノンアルだからなのか?いやでも、ノンアルとはいえ本物のビールの味をある程度再現しているはずであろう。つまり本物のビールもクソマズイ。そのクソマズイ液体をありがたがって購入する人が多くいるという事実を受け入れられなかった。一体どんな舌をしているのか。
まあ、本物のビールの場合はアルコールが含まれていて、それにより酔って楽しい気分になれるから、ビールを好きになるのだろう。そしてノンアルはビールをすでに好きになった人が何等かの原因で飲めないときに代用品として飲むものなのだろう。ノンアルから飲んだのは失敗だったか…しかし、もし本物のビールから飲んでいたとしても、同じようにまずすぎてすぐに飲むのをやめ、酔えなかっただろうから、どっちにしろ好きにはなっていなかったはずだな。

こうして一口で飲むのをやめてしまった私は、二度とビールなんて飲まないと心に誓い、ただひたすらにおいしい柿の種だけを食べ、歯磨きをし、近所のスーパーの泊まり勤務に入るために支度を始めたのだった。22時から翌朝の10時まで、灼熱の店内で光子の数を数え続ける地獄のバイトだが、時給3200円なのでそれでもやめられないのだ。


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