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【企画展】「安井仲治」のモダニズム/「呉昌碩の世界」感想

「安井仲治―僕の大切な写真」展」


兵庫県立美術館では、1930-40年代の関西で活躍した写真家安井仲治の企画展「生誕120年 安井仲治―僕の大切な写真」展が開かれている。今年がシュルレアリスム宣言100周年だからか、各地の企画展もシュルレアリスムに関連するものが多いようだ。
 会期:2013年12月16-2014年2月12日 https://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_2312/

 1903年に大阪に生まれた安井仲治は、アマチュア写真家として活躍し、海外の美術雑誌を仕入れるなどして前衛芸術であるシュルレアリスムの動向にも注目していた。当時の前衛には、「芸術の前衛」「政治の前衛」という二つの「前衛」があったが、安井は両者をともに意識しながら写真による表現を試みたことがわかる。昭和初期の次第に緊迫する時勢のなかで、安井は労働運動、日本に住む朝鮮出身者、流亡ユダヤ人など社会の周辺に目を向け続けた。
 今回の展示では、一連のフィルムから安井がどのように作品を仕上げたかが再現されている。例えば、代表作の「凝視」は、鉄塔を前景にこちらを鋭く睨む男を撮った写真である。労働運動のデモで撮影された一連の写真は、シュプレヒコールをあげる群衆と官憲による弾圧を捉えている。「凝視」の被写体となった男は、もとの写真では労働運動の団旗を手にしているが、発表時にはその断固とした意思を秘めた表情がトリミングされている。背景には近代化と都市化の反面で搾取される労働者の姿があったのだ。都市モダニズムの時代の明暗を切り取る作風である。

「呉昌碩の世界―海上派と西泠名家―」

 もう一つ、同美術館で開催中のコレクション展「生誕180年記念 呉昌碩の世界―海上派と西泠名家―」を紹介したい。

 都市モダニズムをとらえた安井とは対照的に、こちらでは伝統的な中国美術が展示されている。呉昌碩(ご・しょうせき)は中国清朝末期から民国初期にかけて活躍した芸術家で、書・画・篆刻を能くした。
 ここに展示されている作品は一見して伝統的な中国絵画そのものであるが、時代はすでに外に向かって門戸を開いていた。日本人の芸術家には呉昌碩と交流した者、師事した者もいた。今回の展示品のなかには日本の友人に贈り、その後美術館に寄贈されたものも含まれる。そう思って展示品を見ると、伝統的な硬さがややほぐれて、新たな様式を模索しているようにも見える。民国期に入ると中国の伝統美術は影が薄くなるが、実際には伏流水のように生き続けている。現在の中国や香港の美術館を尋ねると、中国絵画のより現代的で大胆な展開を見ることができる。

兵庫県立美術館

 兵庫県立美術館は著名な建築家安藤忠雄の設計による。
 広い。とにかく広い。ここで紹介した展示以外にも、コレクション展「絵画の中の物語」と常設展「Ando Gallary」がある。しかし、行っても行っても部屋が出てくるように思えるくらい広く感じた。

Ando Gallary

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