ふくろう

中国語と中華圏の文学 ○仙台出身○上海留学○卒業1年前に東日本大震災発生○中国現代文学…

ふくろう

中国語と中華圏の文学 ○仙台出身○上海留学○卒業1年前に東日本大震災発生○中国現代文学研究○再び上海留学○現在は関西の大学に勤務

最近の記事

【旅】2018年夏 地震から半年後の花蓮を訪れた

 本日2024年4月3日、台湾の花蓮県沖を震源とする地震が発生した。現在までに死者9人、負傷者963人、複数の建物倒壊が報じられている。この災害で亡くなった方々に哀悼の意を表するとともに、一日も早い復興をお祈りしたい。    2018年夏に訪れた花蓮は、穏やかな南国の街だった。花蓮では2018年2月6日にもM6.4の地震が発生している。このときの被害は、市内を走る断層の上に集中し、複数の建物が倒壊した。  そのとき花蓮ではどのように支援活動が行われたのか。震災後の対応について

    • 【中国語教材】【映画】『こんにちは、わたしのお母さん』NHKラジオ講座のステップアップ中国語

       中国語の先生になったからといって、特別な勉強法があるわけではなく、日々地味に教材を読んでいる。  中国語を自主学習するひとつの難関はリスニング。実際の会話での発音というのは、教科書の音声データよりずっとぞんざいに発音されることが多い。リスニングの教材は聞き取れても、実際の会話を聴き取るのはさらにハードルが高い。自分で学ぶとしたら、映画やドラマを見ながらスクリプトを確認するのがよいだろう。  今回紹介するのは、NHKラジオ講座のステップアップ中国語の教材で、2021年の中国映

      • 【教育】10年代から感じ始めた大学生の変化

         90年代の終わりごろ、『分数ができない大学生』(1999年)という本が話題になったという。  大学生の学力低下と無関心はゼロ年代の若者論のクリシェであり、事実このころに大学生だったわたしも新聞や教育現場で同様の議論をよく耳にした。しかし、10年代の半ばから大学教育の現場で学生を肯定する意見がちらほら聞こえるようになった。  「今どきの学生は予習復習とバイトで忙しいらしい」「こちらが指定していないのに、レポートのテーマがSDGsや、政治や、ジェンダーなんですよ」云々。 1.

        • 【授業】2024年度前期「中国文学特殊講義」

           新学期の「中国文学特殊講義」授業計画。  受講者は大学2-4年生を想定。  扱う範囲は、1919年の五四運動から現在に至るまでの中国現代文学、当代文学。中国本土の文学のみならず、香港や台湾など中国語圏の文学を紹介する。  授業では、中国語圏の多元性に焦点を当て、各地域の文学と文化の魅力や、重要なトピックに関する議論を伝えたい。  第2-9回についてはテーマに沿って作品を選び、解説する。第10-13回では地域別に作品を選び、紹介する。ただし、授業で扱う作品は必ずしも全てがテ

        【旅】2018年夏 地震から半年後の花蓮を訪れた

          【中国語教材】単艾婷著『冷蔵庫にやってきたペンギン』~中級教科書・DX~

           中国語中級の教科書は選定が難しい。大学1年生の授業のためには出版社や大学が個性ある教科書を出版しており、汗牛充棟の様相を呈しているのに対して、中級の教科書は絶対数が少ない。特に、「講読」「作文」は限られた中から選ぶしかないというのが現状だ。  「講読」についていえば、現実の中国語の文章には倒置や省略や複雑な長い文がよく見られる。初級教科書の規範的な文法だけで活きた文章を読むことは難しい。中国語の特徴や読みのポイントを教えられる中級教材が必要になる理由である。昨年度出版された

          【中国語教材】単艾婷著『冷蔵庫にやってきたペンギン』~中級教科書・DX~

          【中国映画】愛と欲望の不動産業界~ロウ・イエ監督『シャドウプレイ』~

           昨今では中国の大手不動産会社の経営危機が伝えられ、乱脈経営や乱開発について日本でもかなり知られるようになった。関連業界も含めれば、GDPの3割を占めるという不動産業界の今後が注目されている。  そもそも、中国で都市開発の失敗から「鬼城(ゴーストタウン)」や「爛尾楼(未完成の建物)」が出現するのは、昨今に限った話ではない。2010年代初めごろでも、再開発のため引越しを余儀なくされたが、完成した団地には誰も住んでいないという話を耳にしたことがある。経済発展が進む時期であっても、

          【中国映画】愛と欲望の不動産業界~ロウ・イエ監督『シャドウプレイ』~

          【震災】【教育】大学教員になって感じる災害ボランティア経験の意味

          2011年 東日本大震災のあとに 13年前のあの日、東日本大震災が発生した。当時大学3年生だった筆者は、大学でアルバイトをしているときに激しい揺れを感じ、停電と断水が続くなか、春休みを過ごした。  それから、大学生活最後の1年と大学院生のときに、筆者は様々な災害ボランティア活動に携わった。当時、震災を契機に生まれた団体が各地に林立していた。ボランティアどうしは団体が違っても同じ目標に向かう仲間同士で、個別の活動やミーティングに参加する形で様々な団体を渡り歩いてもよいという雰囲

          【震災】【教育】大学教員になって感じる災害ボランティア経験の意味

          【旅】バンコク3泊5日の旅②観光とアート

            バンコクの市街地中心部には、高級デパートが立ち並ぶ。中に入っている店は、海外の有名ブランドばかりでない。タイのデザイナーによる1着数万円の高級ブランドも並んでいる。高級ブランドから街中のトゥクトゥクに至るまで、タイは歩くだけでたくさんの美を発見することができる。  今回はそうした観光名所を紹介したい。 王宮・エメラルド寺院 建物の外観は、観光パンフレットを見れば一目瞭然であっても、細部を観察する楽しみは旅行者に残されている。隣り合った場所にある王宮とエメラルド寺院の優美

          【旅】バンコク3泊5日の旅②観光とアート

          【旅】バンコク3泊5日の旅①路上観察

           夜でも熱い熱帯の都市、バンコク。今は1年じゅうで最も暑い季節らしく、毎日の気温は36度。あまりの暑さに、1日歩いて1日休むことにしたので、あまり効率の良い時間の使い方ができない。  まずは飛行機でバンコクに着き、電車で市内に入る。バンコクの中心部には巨大な百貨店が軒を連ねている。一歩なかに入れば、驚くほど高級な有名ブランドが軒を連ねている。外観や内装も洗練されており、派手で装飾的でありながらユーモアや遊び心があり、目の疲れないデザインである。  しかし、目を下に転じれば、

          【旅】バンコク3泊5日の旅①路上観察

          【震災】「第9回全国被災地語り部シンポジウムin東北」参加記

          1日目 シンポジウム 宮城県南三陸町にあるホテル観洋は、海鮮料理と太平洋を望む眺望が魅力的な温泉宿である。旧志津川町と歌津町が合併してできた南三陸町の名前は、東日本大震災の際に連日ニュースで報道され、全国に知られるようになった。町の中心部にあり、多数の職員が殉職した南三陸町防災庁舎は、震災遺構として広く知られている。  ホテル観洋は街の中心部からやや南側の海沿いに位置する。東日本大震災発災当初は、地元住民の避難所となり、また支援団体の拠点としての役割も果たした。その後もホテ

          【震災】「第9回全国被災地語り部シンポジウムin東北」参加記

          【企画展】「陳舜臣生誕100年」神戸文学館

           明治以降開港場として整備が進んだ神戸は、外に開かれた国際都市、新奇なものや情報が行き来する交差点であった。  神戸出身の華人作家陳舜臣(1924-2015)は、神戸で貿易業を営む台湾華人の家に生まれ、初期の推理小説で神戸の華僑社会を舞台にした作品を発表した。第7回江戸川乱歩賞を受賞した氏のデビュー作『枯草の根』では、中国の民族資本家たちの国を超えた愛憎劇を描く。長編第二作の『三色の家』では、神戸のある貿易商人の死をきっかけに殺人事件がおきる。  神戸文学館の企画展「陳舜臣生

          【企画展】「陳舜臣生誕100年」神戸文学館

          人が集まり人が出ていく街 仙台~支店都市に生まれて~

           個人的なことながら、実家の引越しのため仙台に帰省している。仙台で生まれ育ち、大学院卒業までを過ごした。しかし、かつての恩師や旧友がいつしか各地に散っており、仙台に戻っても会える人はもう多くない。一抹の寂しさを感じる。わたしの地元は、人が集っては出てゆく街だった。  支店都市と呼ばれる仙台は、メインストリートに大企業の支店がならぶ一方で、地元企業の体力は極めて弱い。仙台の企業で新卒者を毎年大規模に採用している会社は数えるほどしかない。  大学進学のため多くの若者が移り住むが

          人が集まり人が出ていく街 仙台~支店都市に生まれて~

          【本】老屋顔4『老屋時態』~台湾レトロ建築~

          老屋顔『台湾レトロ建築案内』  台湾の都市を歩いていて気づくことは、赤レンガの古い建物が都心の近くにも残り、新旧の建築がひとつの通りに共存していることである。また、窓格子(鉄窓花)やタイルなど、建物を作るパーツの細部までこだわった装飾性である。  そうした台湾レトロ建築の紹介者として近年台湾はもとより日本でも注目を集めているのが、老屋顔(ラオウーイエン)の辛永勝、楊朝景である。  Facebookへの投稿から始まったレトロ建築の紹介は、2015年に書籍として出版され、現在3

          【本】老屋顔4『老屋時態』~台湾レトロ建築~

          【中国文学】賈平凹『廃都』(1993年)溟濛たる古都の人間模様

           1990年代の中国文壇で、陝西省出身の作家が中央の文壇で大きな注目を浴び、「陝軍東征」と称されたことがある。このとき注目された作家の一人に、陝西省丹鳳県出身の賈平凹(ジア・ピンアオ/か・へいおう)がいる。  小説『廃都』は西安をモデルにした架空の都市「西京(シージン)」を舞台に、小説家荘之蝶(ジュアン・ジーディエ)の周辺につどう文化人や政治家たちの群像や、彼の女性遍歴を描いた作品である。1993年に出版され、発売6か月後に発禁処分を受けたが、現在では大陸でも入手できるよう

          【中国文学】賈平凹『廃都』(1993年)溟濛たる古都の人間模様

          【企画展】ある彫刻家と「呉昌碩の世界」感想

          最後の文人 呉昌碩生誕180周年 中国の伝統芸術は、清朝の滅亡とともに途絶えたわけではない。伏流水のように生き続け、戦後は香港や台湾で開花し、現在にいたっては大陸でも再び伝統文化が見直され、学術からポップカルチャーに至るまで、文化生産の源泉となっている。  今年2024年は、清朝末期から民国期の文人呉昌碩(ご・しょうせき 1944-1933)の生誕180周年にあたる。篆刻と書画の大家である呉昌碩を記念して、国内の4つの美術館で企画展が開催されている。 【生誕180年記念 呉

          【企画展】ある彫刻家と「呉昌碩の世界」感想

          【企画展】「安井仲治」のモダニズム/「呉昌碩の世界」感想

          「安井仲治―僕の大切な写真」展」 兵庫県立美術館では、1930-40年代の関西で活躍した写真家安井仲治の企画展「生誕120年 安井仲治―僕の大切な写真」展が開かれている。今年がシュルレアリスム宣言100周年だからか、各地の企画展もシュルレアリスムに関連するものが多いようだ。  会期:2013年12月16-2014年2月12日 https://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_2312/  1903年に大阪に生まれた安井仲治は、アマチュア

          【企画展】「安井仲治」のモダニズム/「呉昌碩の世界」感想