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【本】老屋顔4『老屋時態』~台湾レトロ建築~

老屋顔『台湾レトロ建築案内』 

 台湾の都市を歩いていて気づくことは、赤レンガの古い建物が都心の近くにも残り、新旧の建築がひとつの通りに共存していることである。また、窓格子(鉄窓花)やタイルなど、建物を作るパーツの細部までこだわった装飾性である。

2023年8月台南(筆者撮)

 そうした台湾レトロ建築の紹介者として近年台湾はもとより日本でも注目を集めているのが、老屋顔(ラオウーイエン)の辛永勝、楊朝景である。
 Facebookへの投稿から始まったレトロ建築の紹介は、2015年に書籍として出版され、現在3巻までが『台湾レトロ建築案内』『台湾名建築めぐり』『台湾レトロ建築さんぽ 鉄窓花を探して』の題で日本語訳されている。

老屋顔4『老屋時態』~レトロ建築の時制~

『老屋時態』早く日本語訳されますように

 日本語未訳の第4巻『老屋時態』は馬可孛羅文化2023年の出版。「時態」とは文法用語の「時制」(テンス)のこと。文法に過去形、現在形、未来形の変化があるように、建物も時代のなかで改装され、転用される。
 近年リノベーションされたレトロ建築に焦点を合わせ、建物の歴史という「過去形」、リノベーションを経た「現在進行形」を紹介する。カフェやホステルとして再利用されたレトロ建築は実際に訪れ、楽しむことができる。ありきたりな旅行案内より深い旅をしたい読者におすすめの一冊である。
 たとえば、日本統治時代に地方議会として建てられた「台南州会」は、1947年の二二八事件で議員たちが軍隊に連行された現場であり、現在は「台南市二二八記念館および中西区図書館」になっている。建物の歴史は、権力が独占された時代から民主主義の時代への変化を語っている。
 一方で、むかし漢方医の診療所だった北港の「保生堂漢方珈琲館」については、建物のなかで武財神をまつるきっかけとなった怪談めいたエピソードを紹介している。ひとつの建物を調べれば、政治や経済、民間信仰など小さな歴史が出てくるのだ。

中国語原文の文体

 文章全体は成語が多いものの、丹念に辞書を引けば読み解ける。たとえば、医者を紹介する場面で出てくる「懸壺濟世」という単語。「壺を懸けて世を済(すく)う」。「壺」は薬の入ったヒョウタン。医者として開業して世の人々を救うという意味である。医者はかつて地域の名士でもあり、日本統治時代には高等教育を受けた台湾人が活躍できる数少ない領域でもあった。本書でも、かつて病院だった建物がいくつか登場する。
 また、建築関係の単語が使われているが、豊富な写真が理解の助けになる。たとえば「玻璃空心磚」という単語。ガラスブロックのことだが、ガラスブロックという日本語さえ知らないわたしのような素人でも、写真を見れば見当がつく。鉄窓花、人造大理石など建築用語については、シリーズ第1巻の『台湾レトロ建築案内』に詳しい紹介がある。 

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