あんスタと月永レオと『愛の妖精』の話

国文 Advent Calendar 2019 の22日目の記事を担当します、国文学3年のふくです。

タイトルを見ていただければ何となく察していただけるとは思うのですが、今回は全く国文学には関係のない、私の趣味の話です。先週末にライブのライブビューイングに行ったのですが、胸がいっぱいになったのでその勢いでこの記事を書いています。知らない人にもわかりやすいように気をつけて書いたつもりなので、お時間があれば最後まで読んでくれると嬉しいです。そしてハマるとまではいかなくても、街やテレビで見かけたり話に聞いたときには「あっ、アドベントカレンダーの記事でオタクが喚いていたやつだ!」くらいに思い出してもらえると喜びます。

さて、本題に入ります。私が今回オタク語りをするのは「あんさんぶるスターズ!(略称:あんスタ)」というスマートフォンアプリゲーム(PCでもできるようになりました)です。2015年3月にリリースされ、なんと300万以上ダウンロードされています。3DCGのバーチャルライブ、声優さんによるライブ、舞台化、アニメ化など様々な展開をしており、もうすぐリズムゲームの配信も開始されます。それに伴って名称も「あんさんぶるスターズ!!(びっくりマークが1つ増えた)」になります。

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男子アイドルの育成に特化した、私立夢ノ咲学院。そんな学び舎に、今年度より新設された「プロデュース科」の第一号、そして初の「女子生徒」としてあなたは転校してくる。この学院で様々な生徒たちと出会い、⻘春のアンサンブルを奏でる日々が始まる―

これは「あんスタ!」の公式HPからの引用なのですが、この説明文を読むと乙女ゲームかと思いますよね。違います。あんスタは一応「女性向けアイドル育成ゲーム」を名乗っているのですが、あまり(というかほとんど)恋愛要素がないことでも有名です。例えばあるキャラクターから「喉が渇いた」と言われ、「スポーツドリンク、水、手作りのドリンク」から選択する場面があるのですが、普通の乙女ゲームなら「手作りのドリンク」が正解じゃないですか。それを選ぶと「得体の知れないものを飲ませようとしないで」と言われて「LUCK DOWN ↓」になります。他にも「眠いから枕がわりになるものをちょうだい」と言われたときは「地面、ハンカチ、膝枕」からの選択なのですが、「地面」ですら「LUCK DOWN ↓」にはならないのに、お察しの通り「膝枕」だと「LUCK DOWN ↓」になります。つまり「膝枕」は「地面」以下の扱いです。面白いですね()公式が夢女子に優しくないことに定評があります。なので男性でも比較的楽しみやすいコンテンツだと思います。実際、あんスタを楽しんでくれている男性の友達もいますし、現場で(もちろん女性が大きな割合を占めてはいるのですが)男性ファンの姿も見かけます。

あんスタの人気を支えている要因は大きく3つあると思っています。クオリティの高い絵強すぎる曲ストーリーの良さです。全部語ると長くなるので、イラストについてはググってください(後で何枚かは貼りますが)。曲については先日、私の最推しユニットのMVが公開されたのでリンクを貼っておきます。彼らに対してn回目の恋に落ちました。
【あんさんぶるスターズ!! Music ショートMV「Voice of Sword」】
https://www.youtube.com/watch?time_continue=11&v=rh_r3lEf9ko&feature=emb_logo

ストーリーの良さについてですが、あんスタは季節にそって1年をループしています(来年度からは1年進む予定です)。なので例えばクリスマスに開催されるライブについてのイベントストーリーもこの4年のうちに3回開催されるなど、同じ題材を扱っていても、それぞれで焦点をあてているアイドルユニット、キャラクターが違うんです。するとイベントAの裏側で起きていたことがイベントA'で判明したり、伏線が回収されたり、曖昧だった情報がはっきりとしてオタクは五体投地!になることもしばしば。内容も「アイドル育成ゲームって何だったっけ......?」となる重みのあるものが多いです(心あたたまる微笑ましいストーリーもあります)。たった一人のためにヒーローになったり、神さまだった子が神さまをやめたり、憧れていた人を自分の夢のために悪人として処刑(比喩)したり、お人形のように生きていたりします。内容が重ければ文量も多いので、「鈍器」と呼ぶことも。「あんスタって暗い話なの?」って思うかもしれませんが、最後はちゃんとハッピーエンドを迎えるので安心してください。あんスタは単なる勧善懲悪、主人公が勝つわかりやすいストーリーではないのも個人的に好きなポイントです。ある人にとっての正義は他の人にとっての正義ではないし、基本的にあるひとつのイベントだけではキャラクターの語りを信用することができません。色々読んで多角的に捉えないと読み間違えることが多いです。そうやって彼らが人間として生きる中で悩んで苦しんで間違えて、それでも未来のために一生懸命進んでいったからこそ、それぞれのキャラクターがたどり着いた景色に感動するし、たどり着いた場所に価値があるのだと思っています。あんスタは人間讃歌の物語であり、愛の物語です。シナリオライターさんがおそらくかなり博識な方なので、古典を下敷きにしていることもあります(今回の記事はそのひとつ『愛の妖精』について後述したいと思っています)。別に知識がなくても楽しめるのですが、私に知識があればライターさんの工夫をもっと読み取ることができるだろうにごめんな......という気持ちになったりもします。

さて、今回はあんスタの膨大なストーリーの中から『ブルーフィラメント』というストーリーに注目したいと思います。このストーリーはサブタイトルが『愛の妖精』になっており、シナリオライターさんが自身のTwitterでジョルジュ・サンドに言及していたので、おそらくジョルジュ・サンドの『愛の妖精』を下敷きにしていると考えられます。

ジョルジュ・サンド(George Sand)は1804年に生まれ、1876年に亡くなった、フランスの女流作家です。『愛の妖精(La Petite Fadette)』は農民の素朴な生活を描いた、サンドの「田園小説」のうちのひとつで、その中で屈指の秀作とも言われています。主な登場人物は双子の兄弟のシルヴィネとランドリー、魔法を使うことができ、野性味のある女の子ファデット。「ファデット」という名前は原題(La Petite Fadette)に使われており、また、「ファデー」という悪戯好きの妖精にちなんだものです。以下に大まかなストーリーを記します。

生まれた時からずっと一緒だった双子の兄弟のシルヴィネとランドリー。ところがランドリーが奉公に行くことになってしまい、二人は悲しみに暮れます。特にシルヴィネはランドリーへの精神的依存の度合いが高く、奉公先でも新しい人間関係を築き、うまくやっているランドリーを見て、ランドリーの自分への愛を疑うようになります。ランドリーは兄と会える日には自分のやりたいことを投げてでもシルヴィネに付き合うなど、兄のことを本当に大切に思っていたのに。
そんな中、シルヴィネが行方不明になります。心配したランドリーは兄を探していたのですが、そのときにファデットと遭遇します。ファデットは魔法使いのお婆さんの家で暮らす女の子ですが、粗野な言動や粗末な身なりをしているのであまり評判が良くありません。ランドリーもファデットに良い印象を持っていなかったのですが、このときにシルヴィネを探すヒントをもらい、その後、返礼として祭りの日に一緒に踊ったことをきっかけとして近しい仲になります。ランドリーのことをずっと密かに想っていたファデットは、彼にに身なりや言動について注意を受けるとそれらを整え、年頃の少女らしい姿に変わり、ランドリーはますますファデットへの想いをつのらせるようになり、二人は付き合い始めます。最初は家柄を気にして結婚を反対していたランドリーの父親も、ファデットが立派な淑女になったことのほか、祖母の遺産で金持ちになったこともあいまって結婚を認めます。
シルヴィネは当然ファデットに嫉妬し、ランドリーへの気持ちゆえに病床に伏せってしまいます。ファデットはランドリーの頼みもあり、シルヴィネを診ることになりました。最初、シルヴィネにはわからないように魔法を使って彼の病状を和らげたのですが、それがバレてしまうと、次は彼の病状の根本的な問題である、気持ちの持ち方、ネガティブな考え方を改善させるために厳しい言葉を投げかけながら彼と舌論を繰り広げます。それを受けてシルヴィネは反省し、ファデットにも友好的な態度をとるようになりました。シルヴィネは元気になり、ランドリーとファデットも無事に結婚し、物語はハッピーエンドを迎えます。

さて、次は『ブルーフィラメント』の説明ですが、物語の説明の前に布教も兼ねて登場人物を紹介します。

・月永レオ(つきながれお)

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私の最推し。Knightsという騎士道を掲げるユニットのリーダーで「王さま」と呼ばれていた。自由奔放で神出鬼没。作曲の天才で霊感(インスピレーション)が降りてくると所構わず作曲し始め、紙がなければ床や壁にも楽譜を書いてしまう。高校3年生とは思えない幼い言動なのに、舞台の上では騎士王らしくかっこいい姿を見せてくるし、バーチャルライブではダンスがとても上手いのでギャップで死ぬ。諸事情(話すと長くなるので割愛。気になる方は「モノクロのチェックメイト」で検索してください。鬱です)で2年生の春休みから半年ほど不登校をしており、学院に帰ってきた際にジャッジメントという内部粛清のための戦いをKnightsの他メンバーにふっかけているが、その戦いを経て改めてリーダーとして迎え入れられた。自分を犠牲にしがちなのでファンとしてはちゃんと自分も幸せになってくれ頼むという気持ちになってよく胃を痛めていた。

・春川宙(はるかわそら)

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「幸せの魔法をかける魔法使い」をモットーにしているSwitchというユニットに所属している高校1年生。明るくて可愛くて本当にいい子。音やにおいに色がついて見える共感覚の持ち主。身体能力が高く、パルクールや壁をのぼるなど、かなり超人的な動きができる。そのためか直覚で行動することが多いのでコミュニケーションがやや不得意。過去にはそれが原因でいじめられていたことも。Switchのリーダー逆先夏目を「ししょ〜」と呼んで慕っており、彼やもう一人のメンバー青葉つむぎ(後述)に見守られながらアイドルとして魔法使いとして人間として日々勉強している。

・朱桜司(すおうつかさ)

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Knights唯一の1年生でKnightsの新しい王さま。Knightsの光で希望。月永レオを救ってくれた子なので月永レオ担は朱桜司に頭があがらない。かつて見たKnightsのパフォーマンスに心を打たれ、入学当時は落ち目だったKnightsに目を輝かせて入ってきた。彼のおかげで止まっていた時計の針が動き出し、Knightsは未来に進むことができた。本当にありがとう。名家の子息でその誇りを持っているが、庶民文化に疎く、興味を持っている(駄菓子が大好き。可愛い)。帰国子女なので英語が流暢。マイペースな先輩に振り回されることも多いが、Knightsの末っ子として大切にされている。

・青葉つむぎ(あおばつむぎ)

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Switchに所属している3年生。図書委員長。穏やかで優しく、むしろ優しすぎて心配。傷つきすぎて痛みがわからないとも言われていた。解決済みだが借金など家庭問題がやばかった。運勢や占いを気にする人で、よくおまじないをしている。実はSwitchのリーダー逆先夏目とは元敵同士。夏目からよく叩かれたり蹴られたりしているが、それを見ている宙曰く「ししょ〜はせんぱいのことが大好きです!」なので問題ない(共感覚でわかってしまうので宙の前では嘘がつけない)。夏目とは幼い頃に出会っており、その時から将来を誓い合った仲であることが判明してオタクを震撼させたし、何なら(同じ事務所に)籍を入れた。

『ブルーフィラメント』の登場人物は以上です。それではストーリーの概略を追いましょう。

司がKnightsの活動に顔を出さないレオを探しているところから物語は始まります。図書館に来たつむぎからレオを浜辺で見かけたという情報を得た司がレオのもとへ向かう間、浜辺で作曲していたレオは空から海に向かって落ちてきた宙と出会います。陸に上がってきた宙が不思議な言動をするのでレオは「変な子」「宇宙人」だと喜びます(詳細は不明だがかつてレオは「宇宙人」に立ち直るきっかけを与えてもらったらしい)が、宙の反応は芳しくなく、宙は海の方へ戻ってしまいます。褒めているつもりだったレオは宙を傷つけてしまったのかもしれないと謝ろうとしますが、浜辺についた司によって連行されてしまいます。後日、レオは教室にいるつむぎを訪ね、宙に謝るために仲介を頼みます。宙が地下書庫で調べ物をしているという情報を夏目から得た2人は地下書庫に向かうのですが、そこにいた転校生(プレイヤーのこと)から何か思いついた様子の宙が「空に近いから」と言って屋上に行ったと告げられます。屋上で宙を「宇宙人」と呼んだことを謝るレオに対し、レオには自分を傷付けようとする「色」は見えなかったこと、哀しそうな「色」をしていたレオが宙を宇宙人だと思って話しかけた時、哀しそうな色が少し薄くなって本当に宇宙人に会いたかったんだなと思ったこと、でも自分は宇宙人じゃないから宇宙人を呼び出す方法を調べ、これから試すところだということを宙が語ります。宙は宇宙人を呼び出すための呪文を唱え始め、レオも一緒になって呪文を唱え、楽しそうな2人が描写されたところで物語は閉じられます。

さて、両者を比べてみると、『愛の妖精』の魔法使い、ファデットが『ブルーフィラメント』の宙にあたるのかな、と思います。2人とも作中で困っている人を助ける魔法、気持ちを楽にしてくれる魔法をかけています(ここでいう魔法とは必ずしも神秘的なものだけを指しません)。
しかし個人的にこの2人には大きな違いがあると思っていて、それはファデットが「変な子」からの変身を遂げたことがハッピーエンドに繋がる大きな要因になったのに対し、宙は昔からそのままの「変な子」であり続けたことです。変身がいけないことだというわけではないですが、宙の「変である」というところに魅力が見出され、だからこそ宙は同じく「変な子」であるレオの気持ちを和らげる魔法を使えたのではないかと思うのです。「変な子」とされる宙の、レオのありのままを受け入れる雰囲気があんスタの中にはあって、私はそれがとても好きです。
『愛の妖精』では約束を破ったランドリーがファデットに謝る場面があるのですが、2人はそれをきっかけに祭りで踊り、仲良くなることになるので、レオが宙に謝罪し、仲良くなる契機が生まれた『ブルーフィラメント』も構図は同じですね。ランドリーもレオもけじめを大切にする人なのでそこも共通しています。
ただ「愛の妖精」なのは宙だけじゃなくて、レオもそうだし、司やつむぎもそうだと思っています。レオは「愛している」が口癖のような子で、いろんな人に愛を振りまいています(それを利用されて辛い目にあったこともあるのですが......うっ、モノクロのチェックメイト......)し、Knightsを守るために自分を犠牲にすることを厭わなかった人です。『ブルーフィラメント』でもその節は読み取れます。司はKnightsを愛しているからこそ、活動に参加するようしつこくレオにつきまとうわけですし、『ブルーフィラメント』はジャッジメント前ですが、レオのことをどうでもいい存在だと思っていれば無視することも強制することもできるのにそれをしません。まあコミュニケーションがうまく取れていないので『ブルーフィラメント』でもレオから「おれのこと嫌いなんだと思ってた」とか言われちゃったりするのですが。あんさんぶるスターズはすれ違いがデフォです、胃が痛い。つむぎはかつて友達のために自分を犠牲にしても構わないと言った人(「エレメント」で検索)ですし、自分も携わった革命のせいで取りこぼされたものを拾い集めようとする人です。『ブルーフィラメント』でもレオ、宙、司の間に立って優しく見守ってくれています。作中ではレオが浜辺にいると聞いて後の話も聞かずに飛び出した司と、宙が屋上にいると聞いて同じく後の話も聞かずに飛び出したレオを見て、つむぎが2人のことを「まだあんまり接点がないはずなんですけど......似ているところがあるのは面白いというか、ちょっと運命的ですね」と言っています。いやほんと、2人が出会ったのは運命なんだよな......(語り出すと小一時間ほどかかるので割愛)
他にも名前や肩書きがその人を規定する話とか、『愛の妖精』や『ブルーフィラメント』の登場人物の愛し方の話とか色々感じたことがあるのですが、これ以上は概略だけじゃなくて両方とも原作を知っている人じゃないと伝わらなくなりそうなのでやめておきます。もし両方知ってるから語ろうぜっていう方がいたら是非語りましょう(笑)

長々と語ってしまってすみません。ここまで読んでくださってありがとうございました!