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おばさんとおじさんが大冒険する児童文学

子どもの本の主人公は、少年少女とは限りません。魅力的な大人もたくさんいます。
今回は私の独断と偏見で、以下のお二人を「児童文学部門:主演中年女優賞・主演中年男優賞」にノミネートしてみました。


① スプーンおばさん

スプーンおばさんはたぶん50歳くらい、子どもが独立して夫と二人で暮らす、ごく普通の主婦です。
普通でないところは、何の前触れもなくティースプーンくらいの大きさにちっちゃくなるところ、ちっちゃくなっているあいだは動物と会話できるところです。
おばさんはちっちゃくなるたびに、カラスに連れ去られたり、じゃがいもと一緒にゆでられそうになったり、なぜかノルディックスキーのレースに参加するはめになったり、たいへんな目にあうのですが、いつも「おやまあ、なんてこった!」とかいいつつ果敢に切り抜けてしまいます。
そして大冒険したあとは、何事もなかったかのように自宅に戻って夕食の支度をしています。
作品の魅力はなんといってもおばさんの生き生きしたキャラクターですが、随所に出てくるコケモモのジャムつきパンケーキとか、マカロニスープとか、レイヤーケーキとか、料理もすごくおいしそうなのですね。

② ぽっぺん先生

ぽっぺん先生は「独活大学」の助教授で、四十代独身、実家で母親と暮らしています。わけのわからない論文を書いてしまうため、いつまでも教授になれないという設定です。
ぽっぺん先生もまた、なぜかある日突然不思議な世界に迷いこみ、大冒険をして戻ってくる運命にあります。
とくに自分が食べられた生物に次々と転生していく、輪廻転生と食物連鎖がひとつになった「ぽっぺん先生と帰らずの沼」は傑作です。
大人が読んでも充分楽しめる軽妙な文章と、ルイス・キャロルを思わせるようなシュールでちょっと怖い物語、作者自身による挿絵も最高でした。

大人だって冒険してるのです

児童文学ではよく、「ふしぎな存在は子どもにしか見えない」(トトロとかもそうですね)、「異世界に行けるのは子どものときだけで、大人になると扉が閉ざされてしまう」(『ナルニア国物語』で主役の一人である女の子が大人の女性になったという理由で物語から排除されてしまったり)、という設定があります。

そんななか、スプーンおばさんとぽっぺん先生は、子育てを終えた主婦と大学の先生という、まったく子どもと接点のない存在です(企画段階で「子どもの本の主人公としてはいかがなものか」とか言われてつぶされなくてよかったですね)。
作中でも動物はたくさん出てきますが、子どもはあまり登場しません(むしろ主人公自身に「内面の子どもらしさ」が出ている気がします)。
子どものころの私にとっても、二人が中年であることはまったく違和感がなく、こういう人もいるんだな、という感じで素直に受け入れていました。

大人もどっしり落ち着いて、子どもを保護したり説教したりするだけの存在ではなく、自分も異世界に行って大冒険して、帰ってきたら夕食をつくったり論文を書いて講義に出かけたり、なかなか忙しいですね。

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