晴れる

図書館員(司書資格あり)。 図書館業界、読書術、書評、仕事と生活のあれこれ。

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マガジン

  • 【小説】おいしいものを、すこしだけ

    現役図書館司書が書いた、図書館司書の登場する小説です。 (全20回連載予定)

  • 図書館のお仕事紹介

    あまり一般で紹介されないマニアックな業務を解説しています。

  • エッセイ

    ちょっとした思い出話など、とりとめのない雑文です。

  • 「提案」シリーズ

    社会制度改革の提案集です

  • 図書館

    図書館全般についての記事をまとめています。

最近の記事

  • 固定された記事

図書館のお仕事紹介(番外編) とある司書の一日

これまで図書館の各業務について個別にご紹介してきましたが、では具体的に私の一日のなかでどういう流れになっているのかを解説してみようと思います。 実際には時期によって業務は異なり、たとえば蔵書点検の時期は朝から晩までぜんぶ蔵書点検だったりしますので、比較的バランスの良い日を想定しています。 また、規模の大きな図書館では担当業務がもっと細分化されていることが多いのでここまであれこれやっていないでしょうし、逆にワンオペの図書室などではひとりですべての業務をこなさなければなりません

    • 【小説】おいしいものを、すこしだけ 第14話

       元日の風邪以来、亜紀さんはあまり具合が良くない。寝たり起きたりしているうちに正月休みが終わってしまったので、ふらふらしながら出勤していった。  食も細くなった。せっかく最近はいくらか食べられるようになっていたのにまた逆戻りだ。私のとっておきの病人食、卵とかつおぶし入り味噌おじやを前にしてため息をついているので、じれったくなってスプーンを取り、おじやをすくって差し出した。 「はい、あーん」  亜紀さんはぎょっとしたように顎を引き、すこし寄り目になって私の差し出したスプーンを見

      • 「売れない○○」であり続けるために

        今回ご紹介する本はこちら。 芸人という病 - マシンガンズ・西堀亮 (単行本) | 双葉社 公式 (futabasha.co.jp) 要するに「売れない芸人のドキュメンタリー」なのですが、何と言ってもこの本の魅力は、成功した芸人の昔話ではなく現在進行形で売れていない芸人さんたちの「生き生き」というか「生々しい」実態の告白であるところでしょう。 データとして、各芸人さんの毎月の収支が掲載されているのもリアルです。 私自身「売れない図書館司書」なので(いや仕事はフルタイムで

        • 【小説】おいしいものを、すこしだけ 第13話

           年末年始に何の予定もなくなったので、例年どおり帰省することにした。荷造りをしているとコートのポケットからジロに渡す予定だったクリスマスプレゼントが出てきて、クローゼットの奥に放りこんだ。    図書館も年末年始は閉館なので、亜紀さんはいつもの休日と同じように散歩して本屋巡りをして、借り貯めた本を読んで過ごしている。絶対に帰省というものをしないので、私がいないあいだは毎年一人でうちにいるのだと思う。亜紀さんは年末年始が嫌いだった。私も働くようになってその理由がわかった。私たち

        • 固定された記事

        図書館のお仕事紹介(番外編) とある司書の一日

        マガジン

        • 【小説】おいしいものを、すこしだけ
          14本
          ¥500
        • 図書館のお仕事紹介
          19本
        • エッセイ
          11本
        • 「提案」シリーズ
          15本
        • 図書館
          41本
        • 料理・食生活
          10本

        記事

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第12話

           思えばその日は朝からろくなことがなかった。    エスカレーターの故障であと一歩のところでいつもの電車に乗れず、ようやく乗った電車は異常信号で十数分停車した。車内は地獄のような混雑で、その間ずっと私は悪臭を放つ人の背中に押しつけられていた。遅刻寸前で会社に駆けこみ、ロッカーの扉を閉めたところでビッという嫌な音がしたかと思うと、スカートの裾をまつった糸が全部ほどけていた。仕事中も、前日ささいなミスをしていたことが発覚して、前から嫌いだった人に「あなたこの仕事向いてないんじゃな

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第12話

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第11話

           ジロの仕事が忙しいことはもともとわかっていた。それでも夏前までは一応日曜日の休みは確保されていたし、定時で上がれる日に待ち合わせて会うこともできたので、これくらいならまあいいほうだろうと思っていた。    それが一変した。次の休みがいつになるかまったく見通しが立たず、定時に上がれる日など夢にも考えられなくなった。休めるはずの日に会う約束をしていても、急に仕事が入ってだめになることが続いた。  もっとひどいのは会っている最中に電話が入って呼び出されることだ。  私の誕生日にち

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第11話

          梅はバラ科で、桜もバラ科

          私は本の好きな子どもでした。 毎週、近所の図書館に通いつめて本を借りていました。 当時は貸出冊数の上限が8冊で、それを各2回ずつ読んでいたので(同じ本を繰り返し読むのが好きだったのです)、月間で延べ64冊くらい読んでいた計算になります。 福音館書店の古典童話シリーズが好きで、『三銃士』や『ガリヴァー旅行記』といった上下巻に分かれたぶ厚い本を見るとワクワクしました。 図鑑も好きで『学研の植物図鑑』を愛読しており、料理している母に向かって「キャベツはアブラナ科だけどレタスはキ

          梅はバラ科で、桜もバラ科

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第10話

          「萩原さんは給料分の仕事だけしていればいいから」  そう言ったのは深谷さんだ。私と同じ契約社員で、更新と再雇用を繰り返してもう十年以上働いている。小柄で色白で、いつも瞼が腫れぼったく、下唇がすこし出ているせいか伝統芸能のお面のように見える。腰が悪いそうでコルセットを装着していて、そのせいでアヒルのようにひょこひょこと歩く。年齢は亜紀さんと同じくらいだ。  私が不服そうな目をしたせいか、深谷さんは言い足した。 「がんばるのはいいけど、あまりにも割に合わない努力は長続きしないし

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第10話

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第9話

           卒業してから最初にサッちゃんと会ったとき「じつは今ジロとつきあっている」と打ち明けると、ほらやっぱり、という顔をされた。 「どうせいつかそうなると思った。ジロは最初から日向子が好きだったからね」 「そうかな」悪い気はしない。 「いつから?」 「卒業式のすこし前」 「ジロから告白されたの」 「うん、まあ」  サッちゃんは詳しい経緯を根掘り葉掘り聞きたがったけれど、私は断固としてそれ以上は口を割らず、後はお互いの仕事やほかの同級生の近況を報告して別れた。

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第9話

          「あったらいいな」の妄想書店

          注:現実の書店さんからしたら「採算が…」「人手が…」「法律が…」「再販制が…」「取次が…」「セキュリティが…」となるでしょうが、これはあくまでもそういったことを度外視した素人の妄想なのでご容赦ください。 新刊書店と古書店が一体化している買う側からすると、新刊書店と古書店を分けるメリットはありません。 昨今のようにすぐ本が絶版になる情勢では、新刊だけで欲しい本を入手するのは無理です。 Amazon の競争力が優れているのは、新刊と古書を並列に扱っているところが大きいです。 従

          「あったらいいな」の妄想書店

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第8話

           年が明けて、卒論も無事に審査を通り、私はめでたく卒業が確定した。卒論の文献集めには一部亜紀さんの助言を受けた。亜紀さんは夜間カウンターにいても最近の大学生はあまり込み入った質問をしてこなくてつまらないそうなので、けっこう面白がって協力してくれた。これが映画なら特別協力としてクレジットに名前を入れたいところだ。

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第8話

          図書館のお仕事紹介(18)予算折衝

          世の中のたいていのものと同じく、図書館も運営するにはお金が必要です。 ただ違うのは図書館には無料の原則というものがあり、どんなにがんばって入館者数や貸出冊数やレファレンス件数を増やしても、それで儲かるわけではありません。 (※館種によっては利用料を徴収するところもあります) そこで、財源としての所属組織から予算を獲得する、というのが重要な仕事になります。 もちろん私のような下っ端が予算折衝に出るわけではなく、関わるとしてもせいぜい「予算折衝で提示する資料作成の補助」くら

          図書館のお仕事紹介(18)予算折衝

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第7話

           ひさしぶりに学科の飲み会に誘われたので行ってみることにした。  最近は就職活動もやる気をなくしていて、うちでひたすら卒論の準備をしているだけだったので、すこしは外に出て人と会わないとまずいような気がする。    居酒屋の座敷に這いあがると、もう全員が顔を揃えていて、すぐに乾杯になった。四年のこの時期になるともうほとんど学校に来ない人も多いので、顔を合わせるのも数か月ぶり、という人も多かった。  飲み始めてすぐに、自分が場違いなところに来てしまったことがわかった。私以外の学

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第7話

          エッセンシャルワーカーの所得税をマイナスにする、という提案

          医療従事者や介護士、保育士といった人々への賃上げがいくら叫ばれても、なかなか進みません。 だったら賃上げではなく、所得税をマイナスにしよう、という提案です。 どのような制度かいわゆるエッセンシャルワーカーに該当する職業の人々に「賃金の安さに対して所得税をマイナスにする」という制度を適用します。 想定される職業としては医療従事者のほか、介護士、保育士、教師、トラックドライバーや公共交通機関の運転手などの輸送関係、電気・ガス・水道といったインフラ関係、保健所の職員など行政サー

          エッセンシャルワーカーの所得税をマイナスにする、という提案

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第6話

           亜紀さんはめずらしく日曜日が休みだ。なぜか自分の本棚から絵本を何冊か抜いて、悪戦苦闘しながら梱包している。図書館員のくせに本の梱包が下手だ。見かねて手伝った。 「これ、どうするんですか」 「甥っ子の誕生日に絵本をプレゼントしようと思って」 「へえ」  亜紀さんは家族と絶縁しているような印象だったので意外な感じがした。 「甥御さんて、いくつですか」 「三歳です」 「かわいいでしょうね」 「まあ子どもですから、さすがに大人よりはかわいいですね。人間の子どもは大人から見てかわいい

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第6話

          類は友を呼ぶ

          図書館の常連に、大学院の先生がいます。 いつもニコニコして、私たち図書館員にも「じつは最近うれしいことがありましてね」とか「いやあこれは自慢なんだけど」と気さくに話しかけてくださるのですが、その「うれしいこと」や「自慢」というのが、ご自分のことではないのですね。 「うちの研究室に、今年もじつに優秀な学生が来てくれてね!将来が楽しみですよ!」 「教え子の博士論文が賞を取ったんですが、これがまたよく調べてあってね…」 最近ふと気づいたのですが、けっこうなご年配にもかかわらず、こ

          類は友を呼ぶ