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20181130「ARCH-ABLE」キックオフイベントログ

先週金曜日に「ARCH-ABLE」のキックオフイベントに参加してきたので,ログをば.
※案の定,個人的な解釈が含まれているであろうことはご承知を.

開催概要
日時:2018年11月30日(金) 19:00~21:00
場所:リトルトーキョー 3F

モデレーター:
水野祐/弁護士・法律家

登壇者:
吉村靖孝/早稲田大学 吉村靖孝研究室
大野友資/ドミノアーキテクツ
能作淳平/ノウサクジュンペイアーキテクツ
塚越智之+ 宮下淳平/塚越宮下設計


ARCH-ABLEって?

ARCH-ABLE(アーカブル)は建築家が生みだしたデザインのデジタルデータをアーカイブし、CCライセンスの下に公開するプラットホームです。どなたでもデータをダウンロードし、建築家のデザインを再現することができます。




参加者プレゼン:ARCH-ABLEの意義とその可能性

●ARCH-ABLEと建築の生産
塚越智之/塚越宮下設計

・ARCH-ABLEを始めようとしたきっかけ1─東京都杉並区の中古住宅の改修プロジェクトで費用が確保できず内装・設えのデザインがお蔵入りになってしまった.
若手としてこのような状況は共通の事態ではないか?
これまでのARCHITECT→BUILDERという形式では,結局ある程度お金のある人しか満足にいくものができない.

・ARCH-ABLEを始めようとしたきっかけ2─新潟県魚沼市のプロジェクト.新しい産業の仕組みをつくることに携わることになった.そこで,根曲り材をつかったプロダクトで空き家を改修することを提案.
少しのきっかけで新しい動きをつくることができる.

・ARCH-ABLEを始めようとしたきっかけ3─TechshopTokyoのクリエイターのための交流ラウンジをつくることになった.そこで誰でも組み立てられる多面体のユニットの家具を提案.椅子にもなるし,机にもなるし,衝立にもなる.

→3Dプリンタなどを使えば,データさえあれば高い再現性を持たせることができる.
つまり,これまでの産業の仕組みからARCHITECT→ARCH-ABLE→さまざまな人,というようにARCH-ABLEを介することで,これまでアクセスできなかった人たちもデザインにアクセスできるようになる.
その時,建築家は本当に専門的な部分だけ担えばよいのではないか.

建築家は建築産業全体で言えばマイノリティ.その時に建築家の存在意義はどこにあるか?→たとえば,篠原一男「住宅は芸術である」─マスとは異なるあり方の建築家の姿がある.


●ARCH-ABLEと手仕事
大野友資/ドミノアーキテクツ

デザインをデータ(情報)で考えること
その時に「手仕事」との関係を考えたい.
手仕事とはつまり「既存の技術」,それとデータのコラボを考えたい.
グラフィックなどの世界ではジェネラティブデザインが登場している.ジェネラティブデザインではアウトプットよりデータが優先される.

つまり,そこにはその時々,条件により異なるものが生まれる「地域性」が存在するのではないか?
→これを建築で考えてみると,建築には「木割書」と呼ばれるものがある.これはかつて大工などが使用していた指示書・仕様書にあたるものだが,ここで書かれていることはプログラミングに近いのではないか.
つまりパラメトリックデザインが可能と言えるのではないか?
「木割書」に従えば,敷地の条件などによって変わる,同じっぽいけど違うものを生成できる.そして,それには日本建築「らしさ」のようなものがある.

・COOOP3

最終的な使い方はユーザーに委ねるデザイン.メス部のみをつくり,ユーザーは3Dプリンタで出力したオス部で自由な使い方ができる.

・日本橋旧テーラー堀屋改修

構造補強でありながら装飾でもある構造体をつくった.鋳物でつくっている.ここで何が面白かったかというと鋳物をつくるための木型はCNCカッターでつくれるようになっていること.
→つまりこちらからも木型の部分をコントロールすることができる.また,鋳物業界ではCADオペがどんどん育っているらしい.


・FabCafe Tokyo Entrance

外装として45°で螺旋状に上がっていく継手仕口を持つデザインを提案,
これはどこの平面,どこの角度で切断するかができないため,事実上図面化が不可能なもの.そこで,治具の部分をshopbotでつくる.そのあとは職人に任せる.

つまり,誰かと協業して初めて完成するやり方でデジタルを利用したい.


■ARCH-ABLEと地域の素材
能作淳平/ノウサクジュンペイアーキテクツ

自分はデジタルを使っているわけではないが,可能性を感じている.そのきっかけは,長崎県五島列島に建てた「さんごさん」という建築.


ここでは,「島にあるモノを集めて島の図書館をつくる」ということを考えた.サンゴの端材や石など,島の人からもらった色々なものを建築に組み込んだ.
→ここからわかったことは,産地が近いと値札がついていないこと,やったことがないと産業のラインに入らないこと
島の木で家をつくろうとしても,製材所が島にないため,ある場所に船で運び込まなくてはいけない.大変な労力・コスト.
それなら産地の近くにデジタルファブリケーション施設があれば,もっと気軽に取り組める.

近代では断絶していた,「土地・気候・風土」からなる「モノの範囲」と,「function・element・material」からなる「設計・計画の範囲」がデータなどの共有によって,デジタルファブリケーションを介して繋がることができるのではないのか?


ARCH-ABLEの可能性
吉村靖孝/早稲田大学 吉村靖孝研究室

コンピュータってなんだろう?
改めて考えてみる.
コンピュータは

計算機(時間を圧縮する)×データベース(空間を圧縮する)

もの.
自分はデータベースの部分に取り組んできた.

・C.C.House

CCライセンスを利用して図面を公開→知り合いのグラフィックデザイナーなどに自由に改変してもらって展覧会を行なった.
その背景として,著作権がどんどん長くなっている,ということがある.著作権が維持されすぎると後続の人たちにとっては足枷になってしまう可能性もある.

1900年の著作権法を見てみると,建築物は適用外になっている.その影響なのか建築家は著作権への意識が低い(雑誌でバンバン決めのディテールを出す).
→その姿勢はCCライセンスとの親和性が高い,だからデザイナーの権利をどうシェアしていくかを考えた.

・HouseMaker

エンドユーザーが自分で設計できてしまうアプリをつくった.設計にかかるブラックボックスな部分をなくすことを考えた.リアルタイムに見積価格も出てくるので,そのまま注文もできてしまうようなことも考えていた.

...etc


公開討論

■3Dデータ共有とはどんなイメージなの?

塚越:中古住宅をDIYしたいというユーザー層が増えている.その需要に対してアプローチできるのではないか?まずは使う文化が根付くようになってほしい.その先に,サポートなどのマネタイズ方法は考えられると思う.

大野:
自分で使うのが第一.職人さんと話すためのモデルケースとなればいい.
コントロールできると思わなかった技術がコントロールできる時代
→その分,責任の重さは生まれる.協業のあり方を実験したい.
共有する背景には,自走してほしい,という思いがある.しかし,そのためにはいくつかのハードルがある.まずは自分ができるということを見せるのが大事だと思う.

能作:デジタルファブリケーションを使うこと自体がハードルに感じている.

吉村:ここでやるのは「賄い」のようなものだと思っている.普段は建築家として,つまりプロとしてものをつくっているので,ある程度のクオリティが必要.ここでは,普段はつくらないものをつくることに可能性があるのではないかと感じている.つまり,普通は組み合わせないようなものを組み合わせると見た目は良くなくても美味しい「賄い」みたいに思わぬ発見があるかもしれない.


■つくったものは改変してもらいたい?

大野:やり方として,最終のアウトプットにしない共有を考えている.だから改変は歓迎.ただ最初のアウトプットは自分でつくってみせることが重要だと感じている.

吉村:建築は改変される(使われて様相が変化する)ことが当たり前なので,コントロールできないことに慣れすぎている.だから.改変に関するセンサーがない.


■3Dデータの共有って今さらじゃないですか?

塚越:メイカーズブームはあったが,建築家にとっては一般的ではなかった.それが2016年にTechShopが出てきてようやく普及し始めたのではないか?具体的に事例が増えてきたと感じる.
また,リノベーションが多くなっている状況に対して,ハックして構築するための建築家の現実的な選択肢としてもあり得るのではないか?

吉村:そもそもデジタルファブリケーションは建築家の職能をはみ出している.建築家は図面を描く人で,実際のものをつくる立場ではない.建築家がビフォーアフターなどをなんとなく嫌がっているのも,現場で出てやっているから?
→大野:つくることと考えることの分離が元に戻る─マリオ・カルポの「デジタル・ターン」.職人などには自分で書いた線は直して欲しいという気持ちがある.だからこそ,データとものが直結するデジタルファブリケーションは責任が重い.


建築家が共有精神ある話

大野:家具職人やプロダクトデザイナーに建築家が図面を共有することを話すと驚かれる.彼らにとって図面は社外秘.触り心地にも権利がある.

吉村:建築の人たちは雑誌に出てくる図面から学ぶ.なぜ建築家が図面をオープンにするかというと,建築は同じものができにくいから→オープン化されていても,オリジナリティに対する価値が目減りしない,という特徴がある.


オープンにすることにより生まれる可能性

大野:「特異性」が生まれる可能性がある.それはコミュニティが生まれる可能性,つまり「ファン」を生むこともできる.
たとえば,「NIKEiD」
あるアートディレクターが,自分がデザインした欲求を満たすためにSNSでデザインしてもらいたい人を募集した.多くの応募があり,そこで応募あった人に対し,デザイン提案を渡す.買うか買わないかはもらった人が決める→そこには一品物が大量につくれる,そしてそれが誰かの手に渡るという特殊な感覚がある.
それは規格の大量生産に対して,「ぶれ」とか「揺らぎ」を許容するような遊びがある.それはオープンにすることによって生まれる価値.


どうやったらデータの共有は盛り上がるのか?

塚越:データを共有するだけでは,創作の連関は生まれない.盛り上がる仕掛けを仕込む必要がある.

吉村:これまで2次元だけを扱ってきたが,BIMの登場によって2次元を介さず直接3次元を扱うようになった.また,「実測」が建築の世界に入ってきている.土木では3Dスキャンなどで進んでいる.実測により既存の建物のデータを得て,リバースエンジニアリングが可能になったり,DIYとデジタルファブリケーションと組み合わせることも可能になると思う.
また,評価の問題も重要.どういう人が評価するか?仮想通貨などの仕組みを取り入れるか?データを共有するインセンティブをどのようにつくるかが重要になるのではないか?


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