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『ゾンビランドサガ』についての所感

いつもの朝。いつもの音楽。いつもの自分。
7人の少女たちの安寧は、突如崩壊する。

死して蠢く、ゾンビによって……

否応なく踏み込んだ世界、そこは“最高×最悪のゾンビワールド”
少女たちの願いは、たった一つ。

「私たち、生きたい。」
これは、少女達が起こす奇跡の物語(サガ)。

MAPPA×エイベックス・ピクチャーズ×Cygamesの3社が偶然にも手掛けた
100%肉汁オリジナルアニメが誕生!

年齢も性別も時代も超えて、びんびんに刺激する『新感覚ゾンビ系アニメ』の幕がいま上がる。

なぜだか忙殺されていて,何もできてない今日この頃.
私は『ゾンビランドサガ』に出会った.
なんとなく視聴したこの作品だったが,今では毎週の楽しみになっている.本年は『ゆるキャン△』然り『よりもい』然り,久しぶりにハマったアニメが盛りだくさんの年であり,本作もその仲間入りをした.
ハマったものについては何かしら所感を残しておく.そうした思いで私は今,衝動的にキーボードに向かっている.

※2019/1/10追記:帰省ついでに聖地巡礼してきました.

「ゾンビを愛でる」ということ

開始1分で主人公が死ぬ

と衝撃的な展開となる本作である.なぜなら本作のメインの登場人物はすべてゾンビであるからだ.
そのゾンビたちがアイドルを目指す,というのが本作の大筋だ.謎すぎる.「ゾンビを愛でる」ことが本作の目標と言えるだろうか.


「ゾンビを愛でる」といえば,『さんかれあ』が思い出される.

夢は「ゾンビっ娘とチュッチュする」こと!

ゾンビをこよなく愛する高校1年生・降谷千紘(ふるやちひろ)は、
ひょんなことから清楚可憐なお嬢様・散華礼弥(さんか れあ)と知り合い、
一緒に愛猫「ばーぶ」の“蘇生”に取り組むことに。

でも、礼弥が発したひと言

「私が‥ゾンビになったら、 責任取ってくれるってことですね‥‥?」

が、まさか実現するなんて!? 史上初?

ゾンビに萌えちゃう青春ラブストーリー、ここに誕生!!

ゾンビを愛する主人公の前に現れたヒロインがゾンビになってしまうというストーリーであり,ゾンビとの共同生活を送るラブコメ作品だ.
しかし,最終的にはゾンビになってしまったヒロインの完全なるゾンビ化を食い止めるために奮闘するところにカタルシスを感じさせるような内容になっている.

ここでは,ゾンビ,つまり「死人であること」によって引き起こされる「腐敗」などが物語の駆動装置として機能している.この作品はゾンビをリアリスティックに考えたものだと言えるだろう.
藤田直哉氏の『新世紀ゾンビ論』では,キャラクターに「死」が導入されることによってキャラクターのあり方の再定義が試みられているとされている.


一方で,『ゾンビランドサガ』のゾンビたちは今のところ「腐敗」といった問題は表出していない.
本作におけるゾンビは腕が取れたり,頭が取れたりする程度だ.また,主人公たちのゾンビ姿はアニメ内の人物からは恐れられるべきものとされている.なので,アイドルとしてステージに登場するときは特殊なメイクを施した上でパフォーマンスを行う.しかし,(一応は)アイドルアニメという体裁である以上,視聴者である私たちにとって醜悪なゾンビの姿を描くわけにはいかないだろう.なので,私たち視聴者にとってはゾンビとそうでない人の違いはあまり分からないとも言える(もちろん縫い目のビジュアルや瞳孔が開いている,顔色などの違いはあるが)
では,本作における「ゾンビ」とは一体何なのだろうか?


時代を超えたコラボレーション

結論からいえば,本作において「ゾンビ」,つまり「死人が動く」ということが機能しているのはゾンビアイドルグループである「フランシュシュ」のメンバーそれぞれのパーソナリティにある.
ここでメンバーのプロフィールを見てみよう.

●源さくら
没年:???
ロングヘアに水玉リボンがチャームポイントのゾンビィ1号。
7人の中で最初に刺激を受けて目覚めたゾンビィ。なぜか生前の記憶を忘れたまま目覚めてしまった。周りの伝説ゾンビィたちには振り回されがちで、突っ込み役になることもしばしば。ちなみに使用言語は唐津弁。がばいかわいい方言女子。

●二階堂サキ
没年:1997年8月30日(仏滅)
金メッシュのポニーテールに鋭い眼光を輝かせるゾンビィ2号。
世紀末、九州制覇を成し遂げた伝説の暴走族チーム“怒羅美”の特攻隊長。「ぶっ殺すぞ」が口癖で、難癖つけながら脅してくる自他共に認めるヤンキーだが、根性ある奴はみんなダチ公。
生前は“たまごっち”にはまっていたが、いつも“おやじっち”になっていた。

●水野愛
没年:2008年8月4日(仏滅)
黒髪ショートに黄色の花飾りが映えるゾンビィ3号。
2000年代のアイドル戦国時代に人気絶頂だったアイドルユニット「アイアンフリル」不動のセンター。歌も上手いが、本人はダンスのほうが自身あり。勝気な性格で、本音を包み隠さず言っちゃう。幸太郎の計画には、とても懐疑的な様子。
ちなみにアイドルモードになると頭の花が増える。

●紺野純子
没年:1983年12月9日(仏滅)
透き通る肌に、憂いた表情が美しいゾンビィ4号。
1980年代のアイドルブームの火付け役であり、一世を風靡した伝説のアイドル。 控えめで自虐的な性格だが、「アイドル」については強い信念を持っており、7人の中では一番の歌唱力の持ち主。逆にダンスはちょっとだけ苦手。
たえに噛まれることが多く、いつも逃げ回っている。

●ゆうぎり
没年:1882年12月28日(仏滅)
長い髪を結い上げて、妖艶な化粧が色っぽいゾンビィ5号。
幕末から明治にかけた激動の時代、維新の裏にこの人ありと言われた伝説の花魁。 おおらかでマイペースな性格の所為か、生前から約150年後の世界に蘇ったにもかかわらず、周りの環境にも、ゾンビィである自分にも動じず、あるがまま揺蕩っている。

●星川リリィ
没年:2011年11月30日(仏滅)
ツインテールにリボンと星の髪飾りが際立つゾンビィ6号。
全チャンネルのゴールデンタイムで主演を務めるという快挙を成し遂げた天才子役。最年少だが、どんな舞台でも臆せず立ち向かう度胸の持ち主。 天真爛漫に振舞う一方、時折黒い本音を見せることもある。生前にいろんな役柄をやったおかげか意外に物知り。

●山田たえ
没年:???
長い黒髪のゾンビィ0号。
7人の中で唯一意識が戻っていないゾンビィであり、いつも何かをかじっている一番ゾンビィらしいゾンビィ。基本的に呻いているだけだが、メンバーの話していることはある程度理解している様子。が、やっぱり本能には勝てないので手近の純子を噛んでしまう。

お分かりだろうか.
昭和のアイドルに平成のアイドル,ヤンキーに花魁などメンバーそれぞれが実にさまざまなパーソナリティを持っている.そして,生きた時代もそれぞれに異なっている(一部は謎となっているが,今後の物語の重要な要素になるのだろうか).
つまり,本作では「ゾンビであること」は「交わらなかった者たちを交わらせること」として機能している.
それゆえ,本作のいくつかのエピソードはそれぞれ異なるパーソナリティを持つ者たちが集ったゆえに生まれる軋轢を描いている(昭和と平成のアイドルのスタンスの違いなど).

アイドルマスター然りあらゆる差異化を施し,さまざまアイドルキャラを生み出してきたアイドルアニメの中で本作は「ゾンビ」を取り入れることで,また異なる差異化のパターンを実現している.また,「ゾンビであることを隠すこと」は,何か「アイドルが私生活を隠すこと」と行動的には似ていないだろうか.

「ある秘密を抱える」という昭和的アイドル像と「差異化を行う」という平成的アイドル像のハイブリッドの交点として,本作では「ゾンビ」が機能していると言えるのではないだろうか.



サガ=佐賀!

さて,勘のよい方はお気付きのことだろうが,本作の舞台は「佐賀県」である.このサガの使い方は「ロマンシング佐賀」を思い出す.

本作では佐賀県がかなり詳細に表現されている.
たとえば,主人公のアイドルたちが共同生活を行う館は唐津に建つ「旧三菱合資会社唐津支店本館」という建物である.
筆者はこの建物のことを本作とは全く関係ないところで最近初めて知ったのだが,まさかそれが本作の舞台だったとは.これは運命的な出来事だと感じた(あはは)

もちろんこの建物だけではなく,唐津の駅前など様々な佐賀の風景が描かれている.

私事ではあるが,筆者のルーツのひとつは佐賀であるので,本作には親近感を強く感じた次第である.
さて,アニメの最終回まで視聴し終え,帰省ついでに物語の舞台の中心地である唐津を回ってみた.実家で聞くと,本作品は佐賀でも話題になっているようだ.

フランシュシュの拠点となる建物は現在は「唐津歴史民族資料館」という建物であり,残念ながら休館中だ.

元は「旧三菱合資会社唐津支店本館」としてこの地域の物流の中心となるような建物であったようだ.

それが分かるように建物は唐津港の近くに建てられており,港のほど近くにある.
アニメ内でも海の描写はあったが,距離的にこんな近くに海がある環境だったとは驚きだ.周囲は住宅に囲まれており,また唐津城と言った唐津の中心となる場所からも離れている.実家が近いとは言え,筆者も本作を観ない限り訪れようとは思わなかったであろう.

先述の通り,アニメの好評は市や議会にも認知されているらしい.アニメの評判を受け,休館中であった本館はこれから活用方法が模索されるのだろう.身内からは,リアクションのスピード感が遅すぎてブームが過ぎ去ってしまうのではないかという危惧が話されていたが,最終回を観る限り2期の可能性も残されており,息の長いコンテンツになり得る可能性も残されているのではないだろうか.これからの動向に期待したい.

なにより新鮮だったのは,本作品が話題になっているということが自然に地元で共有されていたということであった.
アニメに対する社会的な認知のハードルも低くなり,より地元に根ざしたコンテンツとして,「変わった」コンテンツではなく,土着的なコンテンツとして発展されることが期待されたい.


さて,実際の風景がアニメの背景として描かれるのは今では一般的ではあるが,本作では佐賀に存在する実際の店やイベントが登場するのも特徴的だ.

その中のひとつである「ドライブイン鳥」は衝撃的であった.

これまた実家で話を聞くと舞台となった伊万里店は連日行列となっており,経済効果をもたらしているそう.
おい,僻地だぞ.

また,「ガタリンピック」なども登場しており,巧みに佐賀の知名度を上げることに貢献している.もっと上がって欲しい.

全国的には決してポピュラーとは言えない,こうしたものまで緻密にリサーチし取り上げるというのは,非常に有益であるだろう.



さあこれからどうなるのか?

さて,ここまで衝動的に文章を叩き打ってきたわけだが,本作は「ゾンビ」の扱い方において他の文脈とうまくマッチングさせた秀作と言えるだろう.もちろん本作が秀作たる所以は声優陣の上手さにもある(特に宮野真守さんとか宮野真守さんとか).

物語はいくつかの謎を残して終わった.そして,次に繋がる可能性も存在している.続く可能性も高いと思われる.再三になるが,これからに期待したい.
本作に興味を持った方は一度唐津・伊万里に来たれ.




P.S.

OPも楽しいですよ


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