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魁!!テレビ塾 第16訓『しくじり先生 俺みたいになるな!!』

【注記】
これは、学研「GetNavi」2014年2月号〜2017年5月号に連載していたテレビ評コラムの再録です。番組データ、放送内容はすべて掲載当時のものです。私の主張や持論も現在では変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。

世間からはぐれたルーザーに
光を当てる『しくじり先生』

 押忍!! ワシが当テレビ塾塾長の福田フクスケである!

 木曜深夜に放送していた『しくじり先生』が、4月から異例の早さでゴールデンに昇格するという。過去に失敗や挫折を経験した著名人が、過ちを繰り返さないための教訓を講義するこの番組。中でも“神回”だったのが、一般人からたった1ヶ月で議員になり、当選からわずか2週間後に失言で謝罪会見するはめになった杉村太蔵の回だ。

 叩かれまくった当時の心境を「最後まで心の中で『うるせぇ』と思ってました」と語り、自分を証券会社にヘッドハントしてくれた恩人のことを「よくわかってねぇから外人は」とポロリ。生徒役のオードリー若林らからも、「ただ単に超やべーやつ」「テレビ出しちゃいけない人じゃん」と言われる始末だった。

 いみじくもノブコブ吉村が、杉村のことを「魅力的なクズ」と評したように、視聴者が良識や建前に縛られて言えないやさぐれた本音を、世間からはぐれたルーザーが代弁することで、「こんな俺も生きてていいんだ」と思わせてくれるのが、この番組の醍醐味だ。

 ゴールデン進出を前に放送されたSPでは、天才すぎる妹へのコンプレックスからグレてしまった浅田舞が登場。親から「舞の教育は失敗だった」と言われた残酷な体験を語りながらも、「勝てぬなら迷わず行けよ別の道」と笑い飛ばすさまは、テレビの前の多くの“はぐれ者”を救ったはずだ。

 そういう意味で、『しくじり先生』はフジの『アウト×デラックス』に似ているが、テレビ的でなくなった者を「アウト」と切り捨て、「しくじった」と突き放してきたのもまたテレビ自身なわけで、彼らを再びもてはやすのはマッチポンプだなあ、とも思うけどね。

◆今月の名言

「勝てぬなら迷わず行けよ別の道」by浅田舞(フィギュアスケート選手)

『しくじり先生 俺みたいになるな!!』毎週月曜20:00OA(テレビ朝日系)

天才すぎる妹・浅田真央と比べられ続けた半生を振り返り、出した結論がこの名言。しかし、コンプレックスはなくなったわけではなく「ハーフハーフです」と、妹の名言をパクってスタジオを湧かせた。

(初出:学研「GetNavi」2015年5月号)

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【2023年の追記】

現在はだいぶ番組のテイストが変わってしまいましたが、初期の『しくじり先生』はかなり面白い番組でした。

ゴールデン進出直前に番組のディレクターと放送作家に取材をしたことがあるのですが、ゲストとの事前の打ち合わせにかなり時間をかけ、収録中にゲストが台本代わりに読み上げる「教科書」作りに多くのウエイトを割いていたそうです。そうすることで、平場のトークが苦手なゲストであっても、教科書を読み上げれば一定のクオリティは担保できる。その結果、「しくじりを懺悔する」という番組コンセプトに同意してくれさえすれば(そこが一番ハードルが高かったそうですが)、幅広いジャンルからゲストを募ることができるわけです。

特に、「拝み屋」を名乗る者に洗脳され、13年間で5億円を吸い取られた辺見マリのゲスト回は、洗脳の手口を解き明かすマニュアルとしてもかなり秀逸で、『しくじり先生』というバラエティ番組のパッケージだからこそできる神回だったと思います。

ただ、当時の原稿でも最後に指摘している通り、『しくじり先生』のヒットをきっかけに、一時期『アウト×デラックス』や『有吉反省会』など、何かにつけてタレントに「テレビ的に逸脱している」というレッテルを貼って懺悔させるフォーマットの番組が流行りました。「テレビ的じゃない」人や物事をあえてテレビの中でいじることで、「テレビ的なお約束にとらわれないトガった番組」という付加価値を演出できるからだと思います。

でも、「テレビ的にアウト」の線引きって、本来誰も禁止してないのに、制作者側が勝手に世間やお上や業界の意向を忖度して自粛してきたものにすぎなかったりするわけで。「男性アイドルグループが事務所の垣根を超えて音楽番組で共演!」みたいなのも、そっちの事情を勝手に「乗り越えました!」みたいに言われても…というマッチポンプ感がどうしても否めないんですよね。

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