おいテレビ局。おっさんずラブの後に続けと男性同士の恋愛ドラマを量産しても視聴者はなびかないからな。


今、巷をにぎわせている「おっさんずラブ」
おっさん同士の恋を描く「おっさんずラブ」
この成功に我も続けと、各局は男性同士の恋を描いたドラマ企画を立てているかもしれないが、ただただBLをなぞるだけでは、おっさんずラブのようにはいかない。ということをここで断言させてもらう。

おっさんずラブは「BLだから」流行ったわけではない。
逃げ恥や半沢直樹やあまちゃんが流行ったのと同じように、「ドラマの質が高いから」流行ったのだ。
私は今回、毎クール10本弱のドラマを追うヘビードラマユーザとしておっさんずラブの魅力を語りたい。

生きたキャラクター

まず第一の魅力は、「ドラマのご都合主義」がないことだ。
ドラマをドラマティックにするために、登場人物たちは時折「キャラのブレ」を見せる。
普段温厚な友人役が「もう、我慢ならない!」といきなり激昂したり、能天気だったやつがちょっとしたことで落ち込んだり。
それは往々にしてドラマを動かすために必要な演出なのだが、これが一回でも入ってしまうと、視聴者は途端に「ああ、作り話だな」と感じてしまう。

おっさんずラブはどうだろうか。天真爛漫でデリカシーがなく、人に流されながら生きる春田は、どこまでいっても春田だ。「男同士のキスとかまじねーから!」とか言いつつ、牧との同居はなんとなく続けてしまう。
健気で繊細で、でもその心の奥を簡単に人にさらけ出せない牧は、春田に本当の想いを告げられず、別れる決意をしてしまう。
春田への恋心に気が付いたちずだって、突然「春田を取られたくない!」とか言って牧と春田の仲を引っ掻き回すことなく(普通のドラマではこういうことが起きる)今まで通り、男前なちずちゃんのままだ。

キャラのブレがないからこそ、視聴者はドラマに入り込める。
6話のラスト。ちずちゃんの切ない告白に涙し、牧と春田のすれ違いに号泣したのは、それが来るべくして来た物語だったから。
物語のための別れじゃない。彼らをこれまで見てきた私たち全員が理解し、でも納得できない別れだったから私たちは身もだえし、眠れない土曜の夜を過ごした。
それは、彼らが画面の中で生きていたからだ。

語らない言葉

もう一つが、視聴者を信頼した脚本作りだ。「逃げるは恥だが役に立つ」、「アンナチュラル」などヒットを飛ばす野木亜希子さんという脚本家の方は、Twitterにて「視聴者はバカじゃない。すべてを語らずともちゃんと理解してくれる」という旨のツイートをしていたが、おっさんずラブの脚本も、視聴者に行間を読ませるものだと思う。

特に後半にかけて、その秀逸さは切れ味を増していった。

5話。牧と付き合うことになったにも関わらずちずちゃんの話ばかりする春田に、牧は笑顔で「今度の週末、買い物に行きませんか?」と言う。
「デート」ではなく、「買い物」。
春田のことを困らせないために、消極的になる牧だが、その後、「俺、彼氏がダサいとか耐えられないんで」と続く。
それは単に、春田が「あ、おれ彼氏だったんだ」と思うためのセリフではなかった。
デートをしようと言えなかった自分の不甲斐なさをかき消すために放った「彼氏」という手榴弾。
逃げるように部屋を後にする牧は、一人になってからどんな表情で先ほどの会話を回顧するのだろう。

同じく5話、牧との買い物という名のデート中、春田は「牧と行きたいラーメン屋があったんだよ」と言う。この春田の何気ない言葉に対して、牧は「一緒に行きたいって思ってくれたんですね」とは返さない。返さないが、視聴者にはその内に秘めた声が伝わっている。

6話、元夫とはるたん強奪作戦を立てる蝶子さんは嬉々とした顔で黒澤部長のいいところを次々とあげていく。
コメディチックなシーンだが、離婚してなお、黒澤部長のことが大好きな蝶子さんの思いがにじみ出ている。

そしてなんといっても6話ラストのシーン。
春田母との話、ちずを抱きしめる春田の姿。ボロボロに傷ついた牧が春田に告げる
「好きじゃないです」
好きじゃない、というセリフに牧の本当の思いが詰まっている。好き。じゃない。「嫌い」という言葉をどうしても言えなかった牧の心情を慮ると、今すぐ画面を突き破って牧のことを抱きしめたい衝動に駆られる。

あげるとキリがないほどだ。今週の土曜、最終回ではきっとここまで春田たちを見守ってきた私たちだからこそ分かる文脈で、おっさんずラブならではのエンディングを迎えてくれると信じている。

おっさんずラブという金字塔

今回、二つの視点からおっさんずラブのドラマ的な質の高さについて考察したが、ここからいえるのは、もしテレビ各局がおっさんずラブを追随し、男性同士の恋愛を扱ったドラマを制作したとしても、簡単にブームに乗ることはできないだろうということだ。

一発目にしてお手本のような一般向け同性愛ラブコメを作り上げてしまったおっさんずラブは、これからこのジャンルの金字塔となるのではないか。
おっさんずラブに追いつけ追い越せと、マスメディアが同性愛についての造形を深め、やがておっさんずラブの世界が「古い」価値観だといわれるような、牧と春田が堂々と手をつないで街を歩けるような、そんな世界が来ることを切に願う。



#おっさんずラブ #ドラマ感想

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