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私のこと、一生おぼえていてね。

僕は昔からずっと、スーパーマンになりたかった。

子供のころから好きで、毎日熱中してスーパーマンごっこをしていた。

「かっこいい!こんな風になりたい!」

どんな時でもみんなをさっと、魔法みたいに救ってしまう。

僕のあこがれだった。

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君と出会ったのは、ヒグラシが鳴き始めた夏の終わり頃だった。

花火大会も終わり、街はオータムセールが始まって半袖の服を着る人もいなくなってきた。

どうやら世間では夏から秋への衣替えが始まっているらしい。

鈴虫の鳴き声が「もう秋だよ」と告げているような気がして、どこか寂しい気持ちになる。



 

いつもの様に夕方からミナミの引っ掛け橋のツタヤの前に立つ。

「ここは俺のポジションだ。」と言わんばかりに手を組んで、ギラギラした眼光で引っ掛け橋のほうを見渡した。

「いた。」

代わったピアスを付け、スラッとした足とハイセンスな恰好の後ろ姿を見て、すぐに歩を動かした。これはおそらく僕の得意なタイプだ。

「え、何このピアス??めっちゃ可愛いやん、どこで買ったん?」

・・・・ガンシカ

「あーマルイか、いいよね。そのブランドアメリカでめっちゃ流行ってるもんな。」

・・・・ガンシカ

「てかセミの音うるさない??」

並行トークで引っ掛け橋から御堂筋に移動したが、煩いくらいヒグラシが鳴いていた。

「なんなんですか?笑 無視してるねんからもうしゃべらんといてください。」

一瞬こっちを振り向いた。可愛い。
僕の好きな童顔アイドル系だ。

「いやいや、めっちゃタイプでさ。飲み会前に買い物で早めに来たらどこ行こうか迷ってたら偶然見つけて、後悔すると思ってさ。これ半分くらい運命やん?笑」

「違います。笑 なんなんですか半分て。」



そんなこんなで、カフェに連れ出し。

話を聞いていく。どうやら地下アイドルとアパレルしているらしい。

自然と恋愛の話になり元カレの話になる。

「実は元カレが元ホストで、私と真剣に付き合いたいからホスト上がったんです。そのあともめっちゃ仲良くラブラブやったんです。」

元カレはホストをやめてこの子を本命にし、ヒモになったようだった。

すこしずついじったり突っ込んだりしながら上下の関係性を築いていく。

ナンパは関係性だ。この関係がうまくいってない以上成功することは無い。

逆に圧倒的な関係性を構築すれば必ず成功する。

カラオケ打診が通り、ジャンカラに入る。

距離感も近くなり、会話の深度を更に深める。

「すみません。嘘ついてました。実は、元カレ結婚してたんです。」

君は語り始めた。

「ホストあがって同棲してる時、毎日お金せびられてました。断ったり喧嘩したりするとすぐ殴ってきて、めっちゃ怖かった。」

どうやら幸せな暮らしではなかったらしい。

「そのあと彼氏が青森の実家に帰ることになって遠距離恋愛になったんです。それでも毎月何十万も振り込んであげてました。」

「1年くらいたって、急に女の人から電話がかかってきて、お金振り込むのをやめてほしいって。理由を聞いたら、元カレ、実はその人と結婚してたんです。それも3日前の話です。」

まだナンパをして2年ほどだった俺は唖然とした。こんなに不幸な女の子がいているのか。

いつもカラオケ連れ出しするとお互いに一曲ずつだけ入れる。

歌で刺すのは僕のいつものルーティンだった。

「めちゃくちゃうまいね笑笑
男の人でこんなうまい人初めて会った。」



刺さったな。



いつもの歌をうたい、いつも通り食い付きが上がった事を確認していると


君は曲を選曲した。







入れた曲はクリープハイプの「憂、燦々」。

DV男とその彼女の物語がテーマの曲だ。






君は歌いながら泣いていた。




僕の心にも何かが刺さった音がした。

「どうしよう、わたしこんなに人に自分の話したの初めて。」

「俺も。気が合うと思ってた。初対面な気がしないもん。やっぱり運命かな笑」

「そうかも。笑」






仕上がった。

そう確信した俺はいつも通りのルーティンを使い距離を近づけていく。

「いやいや、さすがに出会ったばかりです。」
「わかるわ。でも時間って関係ないよね。10分喋ったらその人のことわかるもん。」
「彼氏としかしたことないです。」
「うん。俺も彼女としかしたことないもん。」


もろもろのグダを流して抱いた。






そのあとしばらく雑談をした。

君が楽しそうに笑う姿を見て、

「この不幸な女の子を何とかしないとだめだ。」

僕はこんな風に考え始めていた。



僕が初めてナンパをしてから2年の月日がたち、道端ナンパに飽きていたこともあったかもしれない。



その時は新規を追い続けセフレすら一人も作っていなかった僕は、君を彼女にすることに決めた。

なんとかこの不幸な女の子を幸せにしてあげたい。その時はそんなことくらいしか考えていなかった。



僕は昔から、危なっかしい人がいたら放っておけない。なにかとお節介を焼きたくなるのだ。

そしていつも良い結果にはならない。お決まりのパターンだ。 









3か月が過ぎた。その女の子についてわかってきたことが3つあった。

1つ目、クスリをやっていた。もちろん麻薬ではない。睡眠薬だ。

デパスという薬を毎日のんでいた。
それを飲んだらフワフワして幸せになるらしい。

2つ目は、整形中毒だった。たしかに抜群のルックスを誇っていたが、それは毎月最低20万弱を顔に課金していたかららしい。

3つ目は、性格がとても優しくて、笑顔がかわいい子だということだ。



どうやら本当に好きになってしまったらしい。





彼女とのデートは楽しかった。

海遊館に行ったり、奈良に鹿を見に行ったり。

今まで新規を追い続けていた自分にとって、意外な発見だった。

昔から常に刺激を求める性格の僕はキープなど無縁な関係だと思っていたのだ。

まだ、人間の心がちゃんと残っているようだ。





君は会うたびにお金をくれた。

「今日のデート代。」
そういって僕に5万を握らせた。

彼氏が植え付けた歪んだ習慣。

男が金を払ってもらう姿は申し訳なくなるらしい。

彼女は家庭環境も悪かった。

条件付きの愛しか許されたことのない可哀そうな子だった。

無条件の愛をもらえたことはあるのだろうか。


最初の数回はお金を受け取っていたが、大切な人だと思いはじめてからは断るようになった。

「お金はもういらない。」

「え、なんで??いるでしょ??いいの?」

君はあまり理解できない様子だった。







それから、週に2.3回は遊ぶようになっていた。

間違えた考え方や薬などについてはなるべく注意した。

「お酒を飲みながらデパスを飲むとめっちゃあがるんだー。」
「ほんまにやめたほうがいいで?」

しかし、止めても止めても君は薬を飲み続けた。






当時、バーで働いていた僕は、なんだかんだ彼女を利用してバーに客として連れてきた。

「シャンパンおろすよ?」

普通にドンペリを注文する君。

その高揚感が忘れられずに何度もバーに呼んでしまっていた。

なんだかんだ、僕は自分勝手な人間だ。




「いつもありがとう。」
君はよくそう言った。






もう桜の花びらが散りはじめる季節になり、
街全体が新しい季節にワクワクしているように見えた。

花見に夜桜を見に行っていた僕たちは、ほろ酔いで夜道を歩いていた。

「本当にありがとうね。」

「なにが??」

「私、二階堂に会って、人生で初めて楽しい!っておもえたんだ。」

「めっちゃ嬉しいなー!でも、楽しいって普通のことなんやで。当たり前にしていこうな。」

「ううん、普通を忘れちゃだめなの。私にとってはずっと、特別なの。」





なんて綺麗な心を持っているんだろう。
僕はこの子を大切にすると誓った。















ー出会ってから1年の月日が経った。

順調に仲良く毎日連絡をとっていたし、

旅行に行ったりしてたくさんの思い出を増やしていった。

でも、薬の量は日に日に増えていた。


そして、バーで働いていると、電話が掛かってきた。

プルルルル、、、、

君からだ。

「どうした?」

「あのねえ、、男の人がねえ、部屋の天井から立ってこっち見ててるの。」

呂律が回っていない。

「おさけ飲んだんだな。くすり何錠のんだの?」

「50錠くらい、のんじゃったぁ、、、」



言葉を失った。

完全に頭がラリっていた。

なんとかしようと、日々薬を減らし、整形を抑えようと頑張っていた。



しかし、それを聞いて





「もうだめだな。」




そう思った。


そう思ってしまった。




その次の日、京都で集合した。

最後のデートにするつもりだった。



お寺を周ったり、オムライス屋さんにいって美味しいご飯を食べた。

可愛い笑顔でにニコニコ笑っている。

昨日、薬をのんでラリっていた人とは思えない。








僕は見捨てるんだ。この子をー。







店を出て鴨川にむかった。

いつも通りカップルが等間隔に並ぶ河原。

薄紅い夕焼けの街並みが川面に写し出されていた。




「今日もたのしかったなぁ。ずっと続けばいいのにね。」
とても幸せそうな顔をして君は言った。


「、、、、、、、。」


「どうしたの??」



「なあ、俺たちもう別れよう。」

「え、、??なんでなんで?」

「もうついていけない。」

「何が?昨日のこと??」

「うん、もう付き合いきれない。」

「薬はやめるから。絶対やめるから。」
彼女は涙目になった。



-----実は今までに何度かこのやりとりを繰り返していた。



「今までにも何度もいったよな。」

「今回はほんとうだから、、。信じて。」

「今回は真剣なんだ。もう信じれない。弱くてごめんな。。」

「何で謝るの?二階堂は悪くない!」

「ううん、俺が弱いんだ。ごめん、、、。」





君は僕が真剣に別れたいと思っていることを汲み取ったようだった。










「、、、、、、、、、わかった。じゃあ、

今日で最後だね、、、一つお願いしていい?」

君は、泣いていることがバレない様に必死に下向いて言った。


「いいよ。何??」

















「・・・私のこと、一生おぼえていてね。」

君は、泣きながらニコッと笑った。





「うん、、。わかった。一生忘れない。」

おそらく、最後になるだろう君の笑顔を、
噛み締める様に言葉を絞り出した。













「じゃあ、、、さよなら。」








いつもなら何度も何度もニコニコして振り返り手を振って笑っていた。



最後の別れは、一度も振り返ることは無かった。






僕の中で何かが消えて行くのを感じた。



それは、なにかとても大切なものの様な気がした。



でもその時、僕はあえて気付かないふりをした。






正確には"今も気づかないふり"をし続けているのかもしれない。
















僕はスーパーマンになりたかった。


でも、叶わないことは知っている。


だから僕はただ、君だけのスーパーマンになりたかったのかもしれない。



でも、なれなかった。


やっぱり、僕はただの弱い人間だった。



ただ一人の人間も救えない。




いつも通りさ。









1人で川沿いを歩いて帰る。

ヒグラシのどこか寂しい鳴き声が、
夏の終わりを告げていたー。

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睡眠不足で目を擦りながら、パソコン向かってタイピングをしている。
























「今でも覚えてるよ。」








僕はブログを書き終え、パソコンの電源を落とした。




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