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【短編小説】魔女の弟子になりたくて第一話

「あぁ、もう、失敗した」

花菜(はな)は自分のベッドに倒れこんだ。
高校入学して2週間がたった。
花菜はこの春、高校デビューをした。

花菜は自他共に認める本の虫。特にファンタジー、空想の世界が大好きであった。
中学時代は休み時間のほとんどを読書に費やし、アッという間に三年間
が終わってしまった。
花菜自身はそれで充分幸せだった。

空想の世界に浸って、たまに幼稚園から一緒の気心知れた子たちに、その話がどんなによかったか熱弁している時間が、何より充実していると感じていた。友達も面倒くさがりながらもちゃんと花菜の話を聞いてくれた。

しかし、中3の夏。
部活引退間際、進路の話が出てきた。

「みんな進路どうするの?」

花菜は何げなくいつものメンバーに聞いた。

「私は付属高校に行きたいんだけど、今のままだとちょっときついからもう少し頑張らないとだな」

そういうのはしっかり者の紗耶香。紗耶香の夢は医者だ。小学校の道徳の授業で「国境なき医師団」の話を聞き、元々正義感の強い紗耶香は「私もお医者さんになって、世界中の困っている人を助ける」と宣言していた。
そこから紗耶香は塾に通いだし、勉強を頑張っている。

「そっか、お医者さんが夢だもんね。恵梨香は?」

「私はスポーツ推薦もらうために次の大会頑張らなくちゃ!」

恵梨香はバレーボール部に所属していた。身長も高く、エースで部長をしている。恵梨香のお母さんもバレーをしていて、恵梨香もハイハイし始めたときには、もうママさんバレーに連れていかれ、バレーボールを触っていたらしい。

「あたしは彼氏くんが同じ高校行きたいっていうから、共学で考えてる」

そういうのは彩音だ。彩音は正統派美人というわけではなかったが、かわいかった。愛想がよく、どの角度が一番自分がかわいく見えるか知っているようだった。彩音に微笑まれたら大体の男子はにやにや、デレデレしている。

「もう、のろけはやめてよねぇ」

「そんなことで高校のレベル下げたらもったいないじゃない」

「ヤダ、下げないよ!あたしは、あたしが行ける一番いいところめざすの。頑張るのは彼氏くん。それに私アイドルになりたいから、彼氏いるのはまずいよねぇ」

「えー!それって別れるってこと?」

花菜以外の三人は恋愛話に火がついていたが、花菜は三人の話を上の空で聞いていた。

(あれ?みんな知らないうちにちゃんと将来のこと考えてる)

幼稚園から一緒で、なんとなくみんなずっと一緒だと思っていたのに、みんなは自分の将来を見据えて歩きだしていた。
夢に向かっている友達はなんだかキラキラしていて、自分だけが幼稚な世界に置いて行かれているような孤独と不安が花菜を襲った。

(なんか、みんな青春してる)

うらやましかった。自分もその中に入りたい。

三人がまだ話に花を咲かせている中、花菜は立ち上がった。

「私、高校デビューする!」

そう言い放った花菜を三人は目を見開いて見た。
しばしの沈黙の後、口を開いたのは彩音だった。

「いいじゃん!花菜は美人顔なんだから、ちゃんと見た目を気にすれば、なんか、こう、高嶺の花って感じになるよ!花菜だけに!」

と言ってニヤッと笑った。

「なんで高校デビューしたいのかわからないけど、外の世界に目を向けるようになったのはなんだかうれしいな。なんかこう、成長する我が子を見ている感じ?」

紗耶香は目頭を押さえるふりをしてそう言った。

「にこにこしてるだけだとダメだからな。舐められないようにちゃんと胸を張って、自信と余裕を見せつけなきゃ。その猫背もこう!」

恵梨香が花菜の肩をぐっと後ろに引いて姿勢正した。

「舐められるって。そんな喧嘩するんじゃないんだから」

そんなことを言いながらも花菜は嬉しかった。
自分も目標に向かって歩み始めた気がした。

そして、今。
第一志望の高校に受かり、みんなの力を借りて無事に高校デビューを果たした。

朝、丁寧にブローした黒髪は、艶やかにきらめき、先生に怒られない程度にした化粧は、もともと長いまつ毛を際立たせ、薄い唇は色気さえも感じさせた。少し着崩した制服はこなれ感も出ている。

(中身は変わってないのに別人みたい)

別人に生まれ変わったみたいで、花菜も最初は「高嶺の花」を演じるのが楽しかった。

(「高嶺の花」ならこう言うかも)

(「高嶺の花」ならこうするかも)

周りからの反応も上々だった。
いつしか「高嶺の花菜さん」というキャラが定着した。

ところが、最初は楽しかった演技も二週間するとだんだん苦痛を感じるようになってきた。
家に帰ってくると制服を着たままベッドに倒れこむようになっていた。

「やっぱり私には無理だよ」

花菜はベッドに倒れこんだまま携帯をいじりだした。
バイトを探しているのだ。
「高嶺の花」はお金がかかる。お小遣いでは賄えない。
親の承諾があれば、学校はアルバイトを認めている。お母さんにアルバイトの話をしたら、

「いいんじゃなーい」

と、簡単にOKが出た。

花菜と母の陽菜(ひな)は見た目が似ているらしく「よく似た親子ですねぇ」と、知らないおばさんに声を掛けられることもあるくらいだ。
しかし、性格は真逆。陽菜は行動派だ。思い立ったらすぐ行動する。「行動あるのみ!警察と病院のお世話にならなければ、なんだってやってみること!」これが口癖だ。
何事も慎重な花菜からすると、たまに「この親は大丈夫か?」と思うことがある。

花菜の性格は父親譲りだ。父の優土(ゆうと)は、樹木医をしている。本人が木かと思うくらい、余計なことは話さない。たまに喋ったかと思うと哲学的なことを言う。小さかった花菜が「よくわかんなーい」というと、「まだ、わからないかぁ」と静かにほほ笑むような父親だ。
ただ、植物のことになると急に饒舌になる。いつもは会話の主導権を握っている陽菜が聞き役になるくらいだ。

花菜はやる気もなく、だらけた格好で携帯の画面をどんどんスワイプしていった。
そのとき一つの言葉が目に入った。

『魔法』

「ん?」

少し頭を持ち上げ、ゆっくり指を動かし画面を戻す。
どこにあったか?確かに「魔法」の言葉があった気がする。

「あった!」

「魔法薬店 調合手伝い等 未経験可」

花菜はベッドの上に正座になり、画面を凝視した。

(どういうこと?本当に魔法を扱っているなら、web上にこんな求人票出さないよね?それとも、そういう設定の雑貨屋さん?でも、調合って書いてあるし。未経験可って、むしろ経験者いるの?)

頭の中でぐるぐる考え、なかなか求人票をタップすることができなかったが、急に母陽菜の言葉が浮かんだ。

『行動あるのみ!警察と病院のお世話にならなければ、なんだってやってみること!』

(ただ求人票見るだけなら大丈夫だよね。大手の求人サイトだもん。)

花菜はそう自分に言い聞かせ「魔法薬店 調合手伝い等 未経験可」をクリックした。

(つづく)

https://note.com/fumiduki_kaede_/n/n38de37531ac3


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