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冬のヴェネツィア

 寒いけど冬晴れの美しい、ヴェネツィアに行ってきた。この年末年始は、いろいろなことが立て込んで、なんだかんだと出勤することが多かったので、その分の代休を頂いて金・土の2日間で出かけた。

 12月25日から1月6日まで続くクリスマスの休暇を終え、2月のカーニヴァルまでの間のこの時期は、ヴェネツィアは一年で最も観光客の少ない閑散期になる。ローマも似たようなものだが、特にカーニヴァル期間に観光客が殺到するヴェネツィアは、そのギャップが大きい。レストランやホテルなど、この時期に数週間まとまってお休みを取るところも多いから、お目当てのレストランなどがある場合は要注意。だが、そうでなければ、ホテルの値段も下がり、それでいて全体に人の少ない穴場の時期となる。
 そしてなんといっても、冬の、お天気のよい日のヴェネツィアは空気がピリッと澄んで、ほんとうに美しい。全く雲のない快晴ともなると、北方向に、真っ白に雪化粧をした、アルプスの連なりがくっきりと見える。ヴェネツィアの島の向こうに白い岸壁が迫り来るように見える風景は、冬のヴェネツィアの定番写真で、今回あわよくば・・・とちょっぴり狙っていたのだが、残念ながら、そこまで完璧な冬晴れとまではいかなかった。

 土曜日の朝、リアルト市場を通りかかると、多くの人で賑わっていた。世界中の観光客が押し寄せるヴェネツィアは、皮肉にもその人口を年々、減らしている。本来は生活の場であるはずの市場だが、観光スポットとしても知られ、カメラや携帯で写真を撮って回るだけの観光客が押し寄せる。(そういう私も、だ。)いつの間にか、店員や利用者よりもそれを取り囲む観光客の数が上回っているようなこともしょっちゅうだった。
 そんな状況に嫌気がさしても決して不思議ではないだろう。そして利用者たる住民の減少と生活スタイルの変化、そして市場に軒を連ねていた魚屋や青物屋が、一軒また一軒と店を閉じ、かつてはぎっしりと立て込んでいたはずの敷地が歯抜けのようになっていた。妙にがらんと寂しい市場の様子に、はっとしたこともある。そこへパンデミックが追い討ちをかけた。
 先日の土曜日は、久しぶりにずいぶん活気のある市場を見た気がした。(自分も含め)観光客もチョロチョロしているけれど、主役は住民たち。魚や貝、野菜や果物を買う地元の人々で賑わっていた。
 長く、ご馳走ざんまいの続くクリスマス期間を終え、もうすぐカーニヴァルもやってくる。その間のこのなんでもない週末は、旅行や外食で散財する余裕はないけれど、週末くらい、家族や友人たちと、家でゆっくり、おいしく食べよう。と、なんだかそんなところなのだろう。それならやはり、魚介類をと求めるのはさすがヴェネツィア人だな、となんだかとても嬉しくなった。

 ところがこのあと。せっかくのお天気だし、離島めぐりでも・・・と考えるのはきっとみんな一緒だったのだろう。ブラーノ島へ向かおうと乗ったヴァポレット(水上バス)は、ハイシーズン並の超満員。
 本島から40分ほどかかるブラーノ島にわざわざ向かったのは、実は、本島ではあまり出会わない、「ゴ」のリゾットを食べたかったから。
 「リゾット・ディ・ゴ(Risotto di gò)」、ゴ(gò)というのは、このあたりのラグーンで獲れる魚で、ギオッツォ(ghiozzo)、つまりハゼのこと。もともとはご馳走ではなく、庶民のどちらかというと質素な料理だったらしい。ところが今は、細かい骨を取って、身をすりつぶす作業に手間がかかるからだろうか、食べられるお店もブラーノ島とムラーノ島の数軒しかない。具の姿が見えない、見た目は地味だけれど、しみじみと滋味深い「ゴのリゾット」を食べようと意気込んでブラーノ島に乗り込んだものの、超有名店は予約でいっぱい。もう一店はシーズンオフのためかお休みであっさり撃沈・・・ムラーノ島に戻っても、おそらく同じような状況だろうとここで方向転換。以前友人たちに案内してもらったお店で、「魚介のリゾット」を頂いた。当初の「地味滋味」からほど遠い豪華リゾットだけど、うっすらと残るスープがグッとおいしくて、これでもか、これでもかというほどの具だくさん。これはこれで大満足のランチとなった。


 もう一つ、実はヴェネツィアで今回食べたかったのは、「サルディン・サオール(Sard’in saor)」、イワシの南蛮漬け。毎日イタリア料理でもローマ料理でも、割と断然平気な方なのだけど、時々無性に食べたくなるのが青魚。もちろんローマの市場などにはあるし、自分で調理すればいいのだけど、ヴェネツィアでは、イワシ料理はいつでもどこでも、気楽に食べられる。特にこの「サオール」はヴェネツィアの定番中の定番。どっさりのタマネギと、お酢の効いた前菜は、体の隅々まで元気になるようで大好き。思っていたよりたっぷり出てきて、堪能した。

 さらにもう一つ・・・。この時期のヴェネツィアで、絶対に逃せないのが、フリッテッラ。
これはカーニヴァルのお菓子なのだけど、年が明けると、ヴェネツィアでは大抵のお菓子屋さんでウィンドウに並べ始める。地元民と観光客で激混みの店内に滑り込んで、なんとか1つ、味わうことができた。

 そのヴェネツィアは今日からカルネヴァーレ(Carnevale)、カーニヴァルが始まる。パンデミック明けで、それ以前を上回る人出が見込まれているとも聞く。多くの人に楽しんでほしいけれど、住民にはちょっと不便な2月になるだろう。

4 feb 2023


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