日本で、実家近くの本屋さんで手に取って、なんとなくすぐに読まずにずっと手元に置いておいた本。ドイツ語と日本語それぞれで小説を書いている多和田さんの、小説はいくつか読んだけれど、新書も出していらしたとは。「言葉と歩く日記」、それはそのまんま、1月1日から始まる、言葉についての考察を軸にした、日記なのだった。 私自身は、イタリアにいるといっても、最近はほとんど日本語で過ごす毎日で、イタリア語もかなり怪しくなっている。ドイツ語は全くわからないし、イタリア語とドイツ語でどのくら
イタリアのいわゆる主要な「建築雑誌」は、いずれも住宅ー居住空間ーをテーマとしているのだそうだ。”Casabella(美しい家)"、 “Domus(邸宅)”、 “Abitare(住む)”・・・確かに。 毎月、第一日曜日は、国立の美術館・博物館施設が無料になる。ローマならコロッセオやフォロロマーノ、フィレンツェならウフィッツィ美術館などを含み、猛烈に行列するものの、住民、観光客ともに人気ですっかり定着しつつある。国立以外の公立美術館も、これに合わせて無料にしているところも多
せっかくローマにいるのだから、ローマらしいことをやろう! そう思いったって、ローマで裏千家のお稽古に通い始めたのは、先日こちらでも白状した通りで、これはまだまだこれから、ひよこどころか、まだ卵がようやく産まれたばかりという状況なのだが、実は、この冬から春にかけてもう1つやっていたことがあった。 「キリスト教考古学入門」講座。たまたま、SNSでふと発見した、教皇庁立キリスト教考古学学校(Pontificio Istituto di Archeologia Cristi
「琴棋書画(きんきしょが)」、弦楽器、囲碁将棋、書道そして絵画が、古く文人の嗜みとされ、「琴棋書画」そのものが、画題として日本でもよく描かれたという。お恥ずかしながら知らない言葉だったが、歌川豊春や、歌麿の細やかで美しい作品がいきなり現れ、おっ!と身構える。 たくさんのイタリア人や外国人のビジターらが熱心に解説を読み、作品を見学する中、こちらも負けじと、作品の間近に寄ってはじーっと観察し、スマホに写真を収める。もともと、風俗画や屏風絵など、人々の生業を細かく描いた絵画に
数日前に、誕生日を迎えました。もう華々しく祝う年でもないし、・・・と思っていたけれど、SNSなどでメッセージをくださった友人のみなさま、ありがとうございました。こちらからは、最近はすっかりごぶさたしてしまっているのに、申し訳ないやら、やっぱりちょっとこそばゆいやら、でした。 自分への「プレゼント」は、「お休み」にしました。「無し」といういう意味のお休みではなく、「休息」という意味のお休み。ちょうどその頃まで、いろいろと追われてしまい、何かこの機会に欲しいものだったり、あ
ローマ滞在も4年目に入って、せっかくなのでローマらしいことをやろう、と突然思い立って、裏千家のお教室に通い始めた。え?ローマらしい?お茶ならわざわざイタリアでやらなくても?・・・実は、知るひとぞ知る、裏千家ローマ出張所(チェントロ・ウラセンケ)は、1969年開所した、ヨーロッパで初の出張所で50年以上の歴史を持つ。 初めて伺って、聞いてはいたものの、そのすばらしいしつらえにまずビックリした。閑静な住宅街の中の落ち着いた、広い中庭のある集合住宅の一角、昔ながらの手動ドアのエ
『哀れなるものたち』。2023年、第80回ヴェネツィア国際映画祭で最高作品賞にあたる金獅子賞。 昨年のヴェネツィア映画祭については、銀獅子賞(グランプリ)の『悪は存在しない』(濱口竜介監督)、同じく銀獅子賞(最優秀監督賞)の『Io Capitano』(マッテオ・ガッローネ監督)、そして審査員特別賞の『Green Border』と、主要な賞を受賞した作品について次々観る機会があって、どれもそれぞれ、これはすごい!を唸らされ、その度に、映画っておもしろい!と言う気持ちを胸に
旅はおもしろい。自分で望んで、観光で行く旅はもちろん、例えば仕事であったり、自分の意思とかかわらず、何か外部的要員事情により(いたしかたなく)出る旅もまた、悪くない。日常とは違う「旅」は、何かと不測の事態も起きる。それが文化も習慣も異なる、言葉の通じぬ外国であればなおさら。もちろん楽しいことばかりではないかもしれない、絶体絶命の危機だってあり得る。命からがら逃げ帰って、もう二度と行きたくない、なんて不幸な例もないとは言えない。 旅は物語を生む。小説にもなれば、映画にも、
「Perfect Days」と「君たちはどう生きるか」がイタリアの映画界で快進撃を続けている年明け、年末までと裏腹に観たい映画はなかなかタイミングが合わず、一方で心に残る演奏会を2回続けて、堪能する機会があった。 チョン・ミョンフン指揮で、ベートーベンの交響曲第6番「田園」、ストラビンスキー「春の祭典」。 サンタ・チェチリア国立アカデミー交響楽団の定期公演SNSで流れてきた広告を見て、ふと、ああ、なんだか新春らしいプログラムでいいなあ、と思って、オンラインでチケットを購入
元旦に発生した能登半島の大きな地震と、翌日の痛ましい航空機事故のニュースに、新年のご挨拶も戸惑ってしまうほど、そう思っている内に早一週間が経とうとしている。犠牲になった方のご冥福をお祈りすると共に、いまだ行方不明の方々の一刻も早い救助と、被災された方の生活の復旧を心から願うばかりです。 イタリアでも連日、日本の災害のニュースが伝えられる中、嬉しい話題もあった。宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」(伊題 “Il ragazzo e l’airone”)が1月1日に封切りに
11月のある土曜日、イタリア北東部ヴェネト州で、パドヴァ大学に通う学生の元カップルが行方不明になった。ご家族や周囲の期待をよそに、女性は数日後に遺体で発見され、重要参考人として行方を追われていた男性はドイツ国内で逮捕された。 残念な、というよりは大変恐ろしいことに、イタリアは元夫婦、元恋人の男性側による女性の殺人事件が非常に多い。今年2023年だけで、すでに105人めとのことで、3日に1人、女性が殺されていることになる。その都度、大きく問題視されるのだが、今回は、大学卒業
ローマの郊外、聖なる島(Isola Sacra)というところにある、ネクロポリスに行った。「島(Isola)」と名がついているけれど、実際は陸続きの土地で、ローマ時代の遺跡群の残るオスティア・アンティーカと、現在のローマの国際空港があるフィウミチーノとの間にあり、ローマ市内を通りティレニア海に流れ込むテヴェレ川とその支流のような形で作られた運河に挟まれていわば「島」状であるためと思われるが、「聖なる(sacra)」の由来ははっきりしないらしい。 なお、たどり着くのにも、帰
「君たちはどう生きるか」を観た。 宮崎駿監督が引退宣言をしてから10年後のこの夏、日本で公開された作品は、イタリアでは年明けの公開が予定されているが、10月18日から29日に開催されていたローマ映画祭で、アニメーションなどを集めた部門にラインナップされた。10月23日、メイン会場の他、市内2カ所でほぼ同時刻に、1回だけの上映。 なるほど、観てみると実はこのタイトルの小説は原作というわけではなく、物語の中でキーとして出てくるのみ。とは言え、イタリア語のタイトル「少年と
イタリアでは、というかおそらくヨーロッパの国はたいてい似たようなものではないかと思うが、音楽や劇場は、学校などと同様に秋から春を1シーズンとしている。最近はやや変わってきているものの、基本的には映画も同じで、夏の間はさまざまなフェスティバルなどあるけれど、古い映画を見たり、そのシーズンの話題の映画が改めてかかったり、ということが多い。 ローマのサンタ·チェチリア国立アカデミー交響楽団のシーズン開幕公演が、レスピーギの「ローマ三部作」だというので、これは!と聴きに行った。
日中はまだまだ夏のような陽気が続くローマだが、朝晩はすっかり涼しく、日がうんと短くなって気がつけば10月も下旬に入ってしまった。すっかり忘れかかった記憶をたどって、この夏の間に観たイタリア映画3本の復習を。(以下、完全ネタバレ注意。) 究極のラブストーリー。そう言ってしまうと、むしろ興味を失ってしまう方もいるかもしれない。誤解を招く表現は避けたいところだが、この夏、日本への帰国便の機内で観た、ある意味静かに衝撃的だった「Il Signore delle formiche
先月9月17日、イタリア美術界のニュースが、世界を賑わせた。ラファエロ・サンツィオ、レオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロと並び、ルネサンスの三大巨匠と称されるラファエロの新たな作品が発見されたと言う。 ラファエロの師、ペルジーノが自らの夫人をモデルに描いた「マグダラのマリア(Maria Maddalena)」と非常によく似た個人蔵のこの作品が、ラファエロの生地近くで開催されていたラファエロに関するシンポジウムにおいて、ラファエロの作品であるとする研究結果が発表された