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さくら

ぼくが立っているところから
いつも窓が見える
中の部屋にはベッドがあって
いろいろな人が使っている

子どもたちがよく使っている部屋だ

部屋にいる子どもたちは
みんなパジャマを着ていて
ベッドで寝ていることが多い

すぐにいなくなる子もいれば
しばらくいて、やがていなくなる子もいる
ずーっと同じ子が
ずーっといるってこともない

いつも部屋を見ているうちに
ぼくはその部屋をよく使う子どもたちの顔を
覚えるようになった

最近またやってきた子は
ちょっとお久しぶりだけど
よくいる子だ

しばらくいることもあれば
すぐいなくなることもある

今回はやってきてからしばらくして
カーテンが閉まるようになって
部屋がどうなっているのかわからない

どうしてぼくがその子のことを
よく覚えているかというと
その子はいつも
ぼくのことを見ているからだ

部屋から見ては
時々ぼくに話しかけてくる

いつも楽しそうに話しているその子を見ると
なんだかぼくも楽しくなってきて
その子のお話を、ふんふんと聴く時間が好きだ

今回はカーテンが閉まっている時間が長い
具合悪いのかな?
それともすぐに元気になって
もう部屋にはいないのかな?

今年ぼくたちは
なかなか咲くことができなくて
しばらく待っていたんだ

遅くなっちゃったけど
やっと咲くことができたよ

きみがぼくの姿を見て
嬉しそうに笑ってくれる姿を見たいな

咲いているぼくや
ぼくの仲間たちを見ながら
またお話しようよ

でも
カーテンが開く気配がない

きみはもうぼくの姿を見ることもできないのかい?

去年の春
きみはぼくを見て
こう言ってくれたんだ

来年は元気になって
この部屋から出て
お花見がしたいんだって

さあやっと咲くことができたよ

お花が咲きそろって
少しずつお花が散り始めるとともに
ぼくの心も少しずつ萎れていった

いよいよ葉っぱが出てきて
お花もあと少しになった日

カーテンが開いた
でもその子はもう
いなかった

しょんぼりして下を向いていると
とんとん
とんとん
ぼくの体を叩く音がする

見てみると
部屋にいるその子だった

その子はとても嬉しそうにぼくを見上げている
もうパジャマは着ていない

大丈夫なのかい?
とぼくは聞いた

もう大丈夫だよ
元気になって退院できることになった
退院したら必ず
きみに会いに行って
触ろうと決めていたんだ

ぎりぎりになっちゃってごめんね

ぼくの方こそ
今年はなかなか咲くことができなくて
待たせてしまったね
でもこうして会うことができて嬉しいよ

ぼくも本当に嬉しい
きみとのおしゃべりの時間は本当に楽しくて
入院生活の唯一の楽しみだった

きみがいてくれたから
ぼくは必ずこの部屋を出て
きみに会いに行こうと思い続けることができたんだ

本当にありがとう
きみのおかげだよ

ぼくはとっても嬉しくなって
枝をさわさわと揺らした

まだ少し残っている花と
新しく出てきた葉っぱが混じり合って
花吹雪をその子に散らしていく

その子は目を閉じて
とても気持ちよさそうにしている

その子を見て
ぼくもとっても嬉しくなる

これからはこうして
部屋の外で会おう

また来年
元気な君に会えることを楽しみにしているよ

ぼくはさくらと呼ばれている花
この部屋に来るすべての子どもたちが
元気になってくれることを
毎日願っている

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