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デザインと歴史: ローマン体を生み出した筆写人の発見が世界を変えた

こんにちは、株式会社スペースマーケットでデザイナーをやっている中原です。

先日iPad Proが届いたんですが、まだ開封していません。
子供の頃は楽しみにしてたものを手に入れたら(ゲームとかCDとか)我慢できなくてすぐに開封してたことを思い出して少し悲しくなりました。
これが大人になるってことなんですかね…

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今回はフォント関連の調べ物をしてたときにたまたま興味を持って読んでみた本をご紹介しようと思います。
一応この記事(マガジン)はデザイナーとしてデザイナーに向けた記事を書くという取り組みの一環なんですけど、もう趣旨から逸脱しまくっているような気がしてなりません。

「一四一七年、その一冊がすべてを変えた」という本です。
ピュリッツァー賞、全米図書賞受賞ってあるのでなんだかすごそうですね。

要約

・15世紀に古いラテン語書物の発掘(ブックハンター)をおこなっていたイタリア人人文主義者のポッジョ・ブラッチョリーニは筆写技術に優れた人で、彼が本を筆写するために仲間と作った文字は現在使われているローマン体の元となっている

・ポッジョは古代ドイツの修道院で、紀元前1世紀に書かれた「物の本質について」(古代ローマの科学的啓蒙書)の写本を発見。その美しい文章(詩)に価値を見出し、筆写して世の中に公開した

・「物の本質について」では、2000年以上前に書かれた本であるにも関わらず「あらゆるものは目に見えない粒子でできている」「宇宙には想像者も設計者もいない」「人間社会は平和で豊かな黄金時代に始まったのではなく、生き残りをかけた原始の戦いの中で始まった」などの現代の一般的な物事の捉え方と非常に近い主張が記されている。すごい。

・こういった考えはその時代ヨーロッパでメジャーな価値観だったキリスト教(カトリック)と相容れない部分が多く非難を受けるような内容だったが、多くの著名人(ダヴィンチ、ボッティチェッリ、マキャヴェッリ、トマス・ジェファーソン…)の思想に影響を与えることとなった

ローマン体とイタリック体を生み出した筆写人たち

ローマン体の元になった書体を生み出したポッジョさん

ポッジョ・ブラッチョリーニさんはブックハンターとしてヨーロッパ各地の修道院に眠る古い書物を発掘していました。もともとはローマ教皇に使える書記官だったのですが、色々あって「物の本質について」を見つけたときは失職中でした。
生業としては司教の秘書をやったりローマ教皇庁で働いてる期間が長いので、ブックハンティングは趣味件副業みたいな感じだったんですかね。

彼は筆写人としてとても優秀で、美しい文字で高速に筆写できる能力をもっていました。
そんな彼と仲間たちは、9世紀のカロリング朝の文字に改良を加え、読みやすい新たな書体を作成しました。それが今現在つかわれている欧文のローマン体の元になったそうです。
また同業者で友達?ライバル?のニッコロ・ニッコリさんの書いていた文字が、イタリック体のもととなっていると言われています。

もう15世紀後半には活版印刷が始まり、その際に人文主義者の文字を参考にヴェネチアン・ローマン体が生まれたとのことなので、それらの源流にポッジョたちの書いていた文字があるということでしょうか。

なぜ修道院で古代の文献が発掘されていたのか

ローマ帝国崩壊後は、不安定な世界情勢もあり教育制度も崩壊しており、識字率も低く書物(知識の集約)への関心がとても低い時代だったようです。

しかし修道士の戒律の中に、祈りや肉体労働と同じように「読書を行なうこと」が含まれていたため、修道院には本が集まっていました。
たくさん本が印刷されて気軽に新しい本が手に入れられるような時代ではないため、古代の本を修道士自らが保管・修復して利用していたのでした。

また読書だけでなく「書くこと」も義務としての労働に含まれており、修行の一環として「写本を書き写す」ということが行われていたために、古代の文章が内容を変更されることなくそのまま新しい写本として引き継がれていました。古代の文章を手に入れたいブックハンターにとってはとてもありがたいことですね。

書き写す内容についてチェックは入らなかったんでしょうか、当時の(宗教的)価値観と相容れない「物の本質について」が修道院に保管・継承されていたというのもおもしろポイントです。

発掘された「物の本質について」という本

Amazonより
エピクロスの唯物的哲学の影響を受けたローマの詩人哲学者ルクレティウス(BC94頃〜55)の現存唯一の長詩。エピクロス哲学の原子論的自然観を詳述した科学的啓蒙書として現在無二の史料的価値をもつ作品である。一切の現象を因果関係において把え、原子と空間から成る世界の自然法則を説明して現実の生を楽しむことを教えたこの雄大な長詩は古代の哲学の圧巻である。

もともと発見されたときは、内容どうこうより詩として素晴らしい作品といとして評価されたそうです。

本の内容について調べていたらとてもわかりやすく解説された動画にであったのでそちらをご参照ください。
(おそらくですが「一四一七年〜」も参考にして作られたんじゃないかな?という内容だったので正直この動画紹介するだけでよかったのでは…と思った)

物事や世界の成り立ち・認識などにおいて当時のキリスト教中心の価値観と相容れない部分が多い内容となっているのですが、ルネサンス期の人文主義者にこのタイミングで発見され、その後宗教改革運動なんかが盛り上がっていくことを考えると「然るべきタイミングで本が発掘された」という感じがしますよね。

余談

動画内でもルクレティウスの主張のもとであるエピクロス主義の説明が出てきますが、「死後の世界なんて無いし、魂は死んだらなくなります」みたいなこと言われても、現在より遥かに過酷な生活を強いられていたこの時代の一般市民にとっては救いもなにもない考え方ですよね。
本質を探求することを素直に楽しめるというのは、とても贅沢な話なのかもしれません。

物の本質を理解することは、深い驚きを生み出す。

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デザインにまつわる歴史を調べていくと、歴史上の出来事との関連がわかってなかなか楽しいです。
興味湧いた方は(ちょっと読み進めづらい本ではありますが…)読んでみてはいかがでしょうか〜

参考記事

欧文書体の基本的な歴史と知識から学ぶこと ローマン体編
ローマン体の歴史


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