大岡山のパート・タイム・ラバー
大岡山駅前のオープンテラスは、今日も風が吹いて、桜の花がゆれる。
緑ヶ丘の谷をのぼる風と駅の向こうからくる風が、真正面にぶつかって抜けるから、テラス席はいつもにぎやかだ。
ガラス張りの壁、白くて高いファサード。丘の上のカフェは冗談のように気持ちいい。東工大キャンパスのほうを見たら、車のミラーが太陽を反射した。
そのとき、光とともに現れたのは君。
しっぽフリフリ、歩き姿が色っぽかったね。
隣の席にくるなんて、なんという偶然。
君は、ムチムチの黒い体をもてあまし、テーブルの下で腹ばい。
まっすぐな目でわたしを見つめた。
おかしいね、どこかで会ったっけ?
だめだよ、そんなに何度も見ては。
目がそらせなくなる。
お互い好きなことご主人にバレてしまう。
それとも、犬と人の契約は無効にしようか。
風が吹いて、花びらが飛んできた。
君は、ふと目を閉じて、鼻をゆらすしぐさ。
誰かと話してるの?ちょっと憎らしいけど。
ここで、同じ風の中にいるのがうれしい。
来年も桜が咲くけど、そのときわたしのこと思い出してね。
通りすがりの人が行き交うテラス席。
パート・タイム・ラバーとは、もう二度と会えない。
よんでくださった方、ありがとうございます! スキをくださった方、その勇気に拍手します! できごとがわたしの生活に入ってきてどうなったか、 そういう読みものをつくります! すこしでも「じぶんと同じだな」と 思ってくださる人がいるといいなと思っています。