見出し画像

愛玩犬コテツの意見

2月、晴れた日の午後。
双子の姉妹は、ボールで遊んだ。
マザーに連れられ
国立公園にある広いフェテラスに来ていた。

青い上着にピンクのズボンを履いた
三頭身のからだがもどかしいが、
さまざまにボールを試すのはおもしろい。
姉はボールをみつけて、両手で抱え、投げ捨てる。何度も何度も。

ボールはしなる、弾む、転がる。
姉が飽きてそっぽ向いたら、ボールは妹にみつかる。
妹はキ゜ーッと叫んで、ボールを投げてみた。

同じ服を着た二人がときどきボールに夢中。
マザーは双子用ベビーカーの横に立って一人だ。

カフェテラスの奥席にいたコテツは、
ボールの気配を逃さなない。
ボール遊びは大好物だ。
男と女の脚とおしゃべりの隙間から、
確かにその音が聞こえてくる。

ボールを追うときの、研ぎ澄ます感じ。
鼻としっぽで舵をとり、駆ける喜び。
決してうっとりするような長い手足ではないが、
フレンチブルドックのからだは嫌いではない。

からだから蘇る闘犬だったころの記憶。
生きている感じがするのだ。

ボールを捕ったら、手で転がさず噛みつくに限る。
くちびると歯と舌を器用に使うのは興奮できるし、
持って帰れば飼い主が待っている!

首をたたいてくれる笑顔。あがった体温。
いちいち大げさな奴ということはおいておくが、
どっちにしてもいいことづくめではないか。

いままた、姉が叫んだ。
どうしようもなく、からだじゅうの毛が逆立ってくる。

いまリードを引っぱってみたら、手応えがない。
見あげれば、結ばれているはずの椅子から解け落ちているではないか。

だからといって、自由だから走ったとは言ってほしくない。
社交的な性格が、災いをよぶことは知っている。

このまえも、ドアの隙間から素敵な猫を見たので走ったら、
脱走したと思い込んだ飼い主がとり乱した。

そうならないよう警告するために、鼻も鳴らしてみた。
しかし奴はトイレにいったきりなのだ。

こんなとき、フレンチブルドッグの自分を恨めしく思うけど。

コテツは軽く頭をあげて地面を蹴り、走る姿勢に移った。
ボールをめがけてー。

彼は、姉妹にとってはじめての犬になるのではないか。









よんでくださった方、ありがとうございます! スキをくださった方、その勇気に拍手します! できごとがわたしの生活に入ってきてどうなったか、 そういう読みものをつくります! すこしでも「じぶんと同じだな」と 思ってくださる人がいるといいなと思っています。