見出し画像

幻の遺言

病弱な我が家は、毎週のように誰かが病に倒れている。
一ヶ月前には長男が病に倒れた。
二週間前には次男が病に倒れた。
先週は妻が病に倒れた。
家族の誰かが病に倒れる度に、私は彼らの回復を願った。

「どうか、代わりに私を病気にしてください」

願いが叶い、ついに私も病に倒れた。
高熱が出て身体の自由がきかず、頭も冴えない。
そんな時は大抵、考え方がネガティブになる。
独身の頃も、よく病に倒れていた。
朦朧とする意識の中で、いつも死を覚悟していた。

「短い人生だった……」

あの頃は現世に未練がなく、死を受け入れ、悟りを開く境地に達していた。
だが、結局死ぬことなく、その後もだらだらと生き続けている。
そんな私も、子供が産まれてからは考えが変わった。
私が死んだ後の、残された家族のことが気がかりだ。
高熱で意識が朦朧とする中、私は妻を呼んだ。

「俺はもう駄目だ」

妻は「はいはい」と聞き流している。

「もし、俺が死んだら保険会社から保険金がおりるはずだ。そうしたら、このアパートを引き払って、実家に戻るんだ。子供達を頼む」

妻は「ポカリ飲む?」と、私の話を完全に聞き流している。

ポカリはとても美味しかった。

その夜、ポカリが効いたのか、私の熱は下がり体調も回復した。
私の遺言は1日で無かったことになった。

ギブミーマネー!ギブミーチョコレート!!