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落ち着きたい夜の、心の灯りに。『星旅少年』坂月さかな

 夜、眠ろうとして目をつむると、静寂と暗闇に包まれる。そのときの感覚は、宇宙と似ていると思ったことがある。

 宇宙にただ一人、ぷかぷかと浮いて、さまよっている。そこには匂いも音もなく、視界は真っ暗。自分の声は誰にも届かない。それって、最大の孤独ではないだろうか。

 昼間はあれほど太陽にうんざりして、人がたくさんいれば疲れて、ひとりになりたいとか、しずかなところへ行きたいと考えるというのに、いざ、目をつむってみると、なんか怖くて、寂しくなる。
 その孤独が一層耐え難く感じる夜が、たまに訪れる。

 だから、好きな本をそばに置いて、時々眠れなくなると、ぱらぱらとめくってみたり、好きな音楽やラジオを聞きたくなったりするのだ。


『星旅少年』


 ある日の夕方、ふいにこの本が読みたくなった。先日この本が届いて、ゆっくり時間のある時に読もうと、本棚に並べていた。
 本棚から手に取ると、「1日の終わりの時間に」という本の帯の言葉が目に止まって、この本を読むのは今だと思った。


「落ち着く」という感情

 一番印象に残っているのは、第二話の後半、64〜67ページの場面。
 寝る前、弟が眠るまで、お兄さんがシガリス(花の蜜を染み込ませた甘いタバコで、煙ではなく蒸気を放出するので、空気も体も汚さない。)を吸っているところだ。

 「落ち着く」という感情が、丁寧に描かれているような気がして、とても好きな場面だ。
 この場面を読んだとき、ふと、小さい頃のことを思い出した。「私もこの感じを知ってる」と感じた。


 家族が夜更かししてテレビを見ていたりするときの、リビングからの明かり。それがあるだけで、どこか安心した。

 だから、この場面は、私の中にある感覚と、似たような香りを感じて、嬉しかった。
 私の中に小さな子どもが住んでいて、その子の抱える不安を、ぎゅーって抱きしめて、落ち着かせてくれたような、そんな気持ちになった。

 例えるならば、夜、電気を消した後の、小さな灯り。小さな灯りだけど、たったそれだけで、暗闇が怖い私に、大きな安心を与えてくれる。


「人はまだどこかで起きている」

『星旅少年 1巻』第2話 66ページ



寂しくて綺麗な星空

 星がキラキラひかっていたり、星空の世界観を想像するとわくわくする。空想したくなる。それと同時に、その中には、寂しさと孤独もあるような気がした。

 私の住んでいる場所では、晴れていれば、いくつか星が見えるものの、満天の星なんて見えない。
 夜の黒い空の向こうに、本当に宇宙があるような心地がしなかった。

 それでも理科の教科書には、その空の向こうに宇宙が広がっているのだと、中学生の頃、細かく説明されているのを見たとき、私は少し怖くなった。

 果てしなくて、少しワクワクするけれど、莫大に広がる宇宙のことを考えると、自分の意志では、もう帰ってこれなくなりそうな気がした。


 宇宙にはたくさんの孤独や寂しさも散りばめられているようなイメージがあった。そのひとつひとつを、303は、掬い取ってくれているような、そんな感じがした。

 落ち着くって気持ちは、幸せや癒しという気持ちだけではなく、寂しさ、辛さ、苦しさ、そういうものがないと完成しない感情だ。


 この漫画は、寂しさにも、ちゃんと居場所を作ってくれる。だから、私はこの物語に癒されるのかもしれない。

 きらきらした星も、不思議な魅力的な世界観も、ほっこりとした癒しも優しさも詰まっている。でもそれだけじゃなくて、寂しさ、孤独さ、そういう苦さみたいなものもある。いろんな味がして、それら全てを含めた味が宇宙なのかもしれないと思った。



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