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198 小さな空とたい焼き

新幹線のひとり分の窓から、小さな空を見ていた。

雨が上がったばかりで空は穏やかな青に戻りつつあったが、まだたくさんの雲が浮かんでいる。

それらの景色は、家や川や木と一緒にあっという間に流れていく。
田んぼや山は、少しだけゆっくり流れていく。
一つひとつの場所をすぐに通り過ぎてしまうので人を見つけられず、やや寂しい。

東京に行くのは約3年ぶりだ。
普段お世話になっている会社に挨拶へ行く。

東京に着いて上を見上げると、新幹線の窓とはまた違った形の小さな空が見えた。

周りに人がたくさん、ビルにくっつけられているモニターにも、広告にも人が映っていたので、寂しくなくなった。はりきって歩く。

ホテルにチェックインする時間が近づいてきたので、ふらふらとホテル周辺を歩いてみた。すると、「鯛焼き」と書かれた看板が見えた。

鯛焼き!心浮き立つ。
鯛を炭火で焼いて、塩とレモンをかけて食べるのだろうか。
皮をぱりぱり、身はふっくら。藻塩が魚の油を甘くする。

東京には、さまざまな専門店があるそうだ。
鯛料理の専門店があってもおかしくはない。

ほとんどスキップしながらそのお店に近づくと、お店の外に出ている「お品書き」にあんこだのカスタードだのと書いてある。

心の中で、ひざから崩れた。
そう、鯛焼きはたい焼きじゃないの。

言葉というものは、耳で聞くときと目で見るときでこうも変わるのですね。上記で出てきた鯛料理も、耳で聞いたらタイ料理(カオマンガイやトムヤムクンなど)だと思いますもんね。

勘違いは困ることもあるけれど、おもしろい発見もある。

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ホテルの部屋は角部屋だったので、ふたつ窓があった。うれしい。

窓から見えるビルに縁取られた空は、普段よりもやっぱり小さいけれど、きちんと青くて安らかだった。

雲は流れていく。ホテルの近くを歩く人も流れていく。
新幹線のようなスピードではないけれど、自分が動いていなくても流れていくんだな。

そう思うと、人の姿が見えているのに、やや寂しくなった。
もう一つの窓に目を向けると、それは窓ではなく青い絵だった。

廊下を歩いているときは、この部屋が角部屋に見えたけれど、もしかしたら角部屋じゃなかったのかもしれない。

私は視力が弱いので、こういう勘違いはよく起こる。

だけど、そうか。壁に窓風の絵を飾れば2面採光になるのだ。
勘違いは困ることもあるけれど、おもしろい発見もやっぱりある。


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