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何千万の読者をかかえる電子出版は、机2つから始まった【代表者挨拶】

こんにちは。出版社ファンギルド代表の梅木 読子(とうこ)です。
 
私たちが電子書籍事業を始めたのは、2005年。
その頃は売上が月10万円程度でした。
 
そこから今年でちょうど20年目。

当時数名から始まった事業は、今や1,000人を超える作家クリエイターさん達とのお付き合いにより、何千万人もの方が私たちのつくる作品を読んでくれるようになりました。
 
試行錯誤しながら進んできましたが、事業撤廃の危機があったり、会社清算で働く場所がなくなったまま出産に入ったりと色々ありました。
 
今日は私のご挨拶とともに、どのような道のりをファンギルドがたどってきたのか大雑把にご紹介したいと思います。


2005年、電子書籍なんてまだ誰も興味がなかった

まず私の経歴ですが、1996年にインプレスというIT系の出版社に新卒で入社しました。当時はITバブルの真っただ中、雑誌創刊やWebメディア立ち上げなどの宣伝業務から、会社が上場するタイミングで広報も担当しました。

プレスリリース持って兜町とか記者クラブまわったり、できたばかりの六本木ヒルズで記者会見仕切ったりおもしろい経験をさせてもらいました。
 
そうこうしているうちに、会社トップから「これからは電子書籍だ――!」という大号令がかかり電子書籍を担う新設部署にいきました。紙の書籍を電子化(当時はPDFだった笑)していく仕事です。
 
しかし世の中はまだ電子書籍黎明期。紙向きに作った本を単にそのままPDFにしただけじゃまったく売れないんですね。当時の編集者も電子なんて興味ないし。なんかとても不毛な思いをしていました。
 
じゃー、電子で売れるものを電子用に企画したらいいんじゃない?

私にやらせてください!

と、インプレスの社内ベンチャーで立ち上げたのが、出版社ファンギルドの前身であるモバイルメディアリサーチです。2005年、インプレス傘下で(株)モバイルメディアリサーチという法人を立ち上げました。
 
それで当時まだ社長をやる度胸がなかった私は、社長業をやってもらえるおじさん(注:インプレスの偉い人。いまだ尊敬する師)に手伝ってもらい二人で事業をはじめました。
 
その頃はまだガラケーの時代だったので、読者ターゲットをいつも携帯を見ている若い女子に定めて、その女子らに刺さりそうな恋愛指南書とか恋愛小説みたいなコンテンツを出していったらこれが結構当たったんですね。電子書店のランキングとかでは常に上位に入っていたと思います。
 

これからは携帯で漫画の時代だ――!

ただ、手応えはあったとはいえまだまだ市場自体が小さいので、当然売上の規模も小さい。

私自身は編集者として、おもしろいコンテンツや作家さん探しに躍起になっていましたが、各電子書店でランキングのテッペン獲ったところで売上はそんなにいかない日々が続きます。
 
ちなみに(株)モバイルメディアリサーチは、電子出版がメインですが、売れたコンテンツは紙でも出版し、また「いまよむ」という電子書籍配信サイトも自社で運営していました。

WAHAHA本舗の芸人さんに連載コラム書いてもらったりしてたな。(たんぽぽ白鳥さんの旦那様です。)これらの事業を実質5人でやってましたね。
 
で、そうこうしていると「これからは携帯で漫画の時代だ――!」と叫ぶ人たちがまわりにたくさん出てきました。2009年頃です。

文字物をがむしゃらにやっていても伸び悩んでいた私は「漫画か、やるか」と。漫画に参入していくわけです。

最初は、デジブックジャパンという今はもうない電子書籍の取次会社と共同制作という形で何作か一緒につくっていきました。なんせまったく漫画編集のノウハウがないので。

手探りながらも前に進むしかなかった。
 
でも漫画でやっていこうと思いはじめた矢先、インプレスによって(株)モバイルメディアリサーチの事業撤退が決まります。

思ったほどの事業成長が見込めないということが原因でしたが、それと同時に私の妊娠が発覚しました。
 

会社が清算され、働く場所がなくなる

事業計画を「電子コミック」を軸に立て直し、株主にきちんとしたプレゼンができていたら違っていたかもしれませんが、私自身、初めての出産を控えてそこまでやり切れる自信もパワーもなかったというのが正直なところです。この当時のスタッフには私の力不足のせいで今でも本当に申し訳なく思っています。(ちなみに現在は、映画ライター、ヘルス系企業、もう1名はファンギルドにて元気に活躍中!)
 
会社が清算され、私は戻る場所がないまま出産準備に入りました。
産後いきなり転職活動からかー、ま、どうにかなるか…という気持ちではありました。
 
そしたら、このモバイルメディアリサーチの事業を買いたいといってきた企業がいたんですね。それが今の親会社、日本出版販売(株)(以下日販)でした。

2010年、日販によってモバイルメディアリサーチの事業が買収されます。

出産後、呼び出された日販本社10階(いわゆる役員フロア)は絨毯がふかふかで踏んだら軽く沈みそうなくらい。ドベンチャーを渡り歩いてきた私からしたら異世界でした。

あぁ私はこんな絨毯がふかふかな会社に買われたのか」と思ったのを今でも覚えています笑。
 
そして2011年、日販傘下となる株式会社クリエイターズギルドという制作会社がモバイルメディアリサーチの事業を引き受けてくれることになり、これを機に私もクリエイターズギルドの社員になりました。

ここから、いまのファンギルドにつながる最強のメンバー達と次々に合流し事業が少しずつ拡大していくことになります。とはいえ、2011年の月売上はまだ数百万円程度だったと思います。(ちなみに、電子コミックはじめたばっかの頃は月売上10万円とかだったからな!)
 

ちょっと脱線(個人的な出産話)

そして偉そうに語っていますが、個人的なことをここで挟ませてもらうと、わたくし2010年と2011年に立て続けに子供を出産しており、この頃の事業貢献はほぼ出来ていません。

次男の妊娠がわかったのは、産後復帰したばかりのまだ長男が生後8か月のときでした。
 
当時の私の肩書は編集長。

「これから編集部を盛り上げていくぞ~!」という矢先だったので、なかなか上司に伝えづらかったのですが…

でも第一声「よかったじゃん!おめでとう!」と心から祝福してくれたんですね。
 
事業を日販に買われて、これから成長させていかなきゃいけない、とても大切な時期だったのにも関わらず。仕事のことなど全く気にせず私の人生を応援してくれました。あの時のことは今でも忘れません。
 
もう少し脱線しますと、次男を産んだ直後がとてつもなく大変で。

生後3日で、新生児無呼吸発作と心室中隔欠損の疑いがあるとかで救急車で小児科のある大きな病院に救急搬送されたんですね。生まれて初めて救急車に乗りました。生まれてわずか3日の我が子とともに。そのまま1か月入院することになったんですが、母乳を凍らせて朝と晩に毎日2回届けて…助からないんじゃないか…後遺症は…とか本当に不安でしょうがなかった。ネットもたくさんたくさん調べました。

今もしかしたら、「新生児無呼吸」「心室中隔欠損」で検索してこのページにたどりついた方がもし万が一いたらお伝えしたいのですが、うちの次男は今めっちゃくちゃ元気です!元気な野球少年となりグランドを駆けずり回ってます。後遺症もなし。なので希望を持って!とお伝えしたい。
 
すみません本気で脱線しましたが……そんなこんなで、私がちゃんと職場復帰できたのは2012年からになります。

死ぬほど作品をつくった、電子コミック爆速時代

ここからは、もうTL(ティーンズラブ)とメンズコミックを死ぬほどつくりました。電子コミック黎明期、読者が一番求めているジャンルがここだったからです。

当時、私入れて編集者5人。

いわゆる漫画出版社での編集経験がない人間たちだけでしたから「とにかく量が質を産む。たくさん打席に立とう。資金は日販が出してくれる(まだ)」という気持ちで、作品を作り続けました。

他社作品の研究もたくさんしました。
そのうち、手応えのあるものが出てきたんですね。
 
めちゃコミックの担当さんからわざわざ電話いただいて「梅木さん、あの『デリヘル姫』いいですよ!すぐミリオンヒットになるかも」と教えてもらって、ほんとそれがすぐに100万ダウンロード軽く超えていきました。

メンズも当たっていきましたね。電子コミック事業にだんだんと成長の兆しが見えてきました。編集部でも「もっといける!ていうかやるしかねーし!」みたいな機運がどんどん高まっていきました。
 
2013年~2015年頃には、今のファンギルドを支える中核メンバーがどさどさ入社してきてくれて(2016年以降も入ってきてくれてますけど!)、どんどん作品の量も以前より安定的に作れるようになってきて、さらに事業としての成長性を感じられるようになってきました。

そうやって電子コミック事業が大きくなってくると、クリエイターズギルドは当時、電子コミック以外の事業が本業でしたから会社分割したほうがいいんじゃないか、ということで2016年、クリエイターズギルドから会社分割し、現在の(株)ファンギルドを設立することになります。
 

小さな事業が”会社”として形になった瞬間

2016年7月1日、(株)ファンギルド設立。
ファンギルドの社名は、私とMさん(現取締役)、Iさん(現編集長)の3人で、

おもしろい(FUN)仲間たち(GUILD)と、おもしろいものをつくっていく!
なんかうちっぽくていいんじゃない?
トゥルルル…トゥルルル…【はい、ファンギルドでございます】(電話応対のマネ)」
うん、悪くないかも

みたいな感じで、当時御茶ノ水にあったスワン食堂というカフェでわいわい話しながら決めました。(ファクトリーギルドという候補名があったことだけは覚えている…あとは忘れた)
 
それから2016年以降もどんどん中途採用や日販からの出向者も増えていき、ファンギルドを支えるおもしろい仲間たちがたくさん集まってきてくれています。今や総勢100名ほどになりました。(2024年現在)

メンバーの増加により2年に一度くらいのペースで、御茶ノ水→飯田橋→新宿二丁目→新宿二丁目→新宿二丁目と事務所移転も何度も行いました。
(こう見ると、新宿二丁目好きすぎますね。)
 
濃いメンバーが集まってくれたおかげで、当初TLとメンズコミックの2ジャンルからはじまった電子コミックも、2016年にBL(ボーイズラブ)創刊、2019年に少女マンガ、女性マンガ、2020年に青年マンガ、2021年にカラー縦スクロール漫画、2023年にはコミカライズをメインとした異世界ファンタジー漫画という感じで、どんどんジャンルを拡大し読者さんへお届けすることができています。
 
また、2017年にはTL、BLの紙出版、2021年には青年コミックの紙出版もはじめました。
 
またこの規模の出版社にはめずらしく、海外事業にも力を入れておりコンテンツの輸出入ともに好調に伸びています。現在、16カ国以上の国で私たちのつくるコンテンツを見ていただけるのは大変うれしいです。
 
といったように、試行錯誤しながらはじめた小さな種だった事業が、ここまで成長してこれたのはひとえにおもしろい仲間たちが集まってきてくれたからに他なりません。社名に込めた思いが、少しずつ実現できていることを感じています。
 
ファンギルド設立から3年は、日販のグループ会社の社長が兼務してファンギルドもみてくれていたのですが、2019年度からは私が社長をやらせていただくことになりました。…というのがだいたいのこれまでの流れです。

ここまでの流れを図にするとこんな感じ。


ファンギルドが目指すこと

2020年に、ファンギルドは以下のミッションを定めました。
ストーリーの力で、人生にFUNを。
 
いにしえの時代から、人間は頭の中のイメージを表現することでさまざまなストーリーを生み出し分かち合い共感してきました。何万年も前に描かれた洞窟の壁画からも、絵を描くことで人々が何かを伝えあってきた歴史があることがわかります。

そしてこれから先の未来において、たとえどんな時代になったとしても、人間が持つ想像力の素晴らしさや、そこから生み出されるストーリーを求める人間の本質的な欲求が変わることはないでしょう。
 
いま先が見通しづらい社会のなかで、これまで以上に孤独や不安を抱える人たちが増えているようです。せめて少しでも、心が癒されたり元気になれたり、読んでる時だけは嫌なことを忘れられるとか、そんなストーリーをお届けしていくことで心の支えとまではいかなくても、せめて一助くらいにはなれれば…とシンプルにそう思います。
 
また最近、推しとともに生きていくという人達が増えているみたいですね。
フィクションであるキャラの世界と自分のリアルな世界とが現実空間でどんどんリンクしていく…テクノロジーやメディアの進化とともに今後さらに加速するような気がします。

誰かの想像力で生み出されたものによって他の誰かが幸せな時間を生きられるって、すごく尊くてピュアなことですよね。
 
ファンギルドも読者にとってそういう魅力ある時間を提供し続けられる企業を目指していきたい。そして当然ながら、それは私たちだけでは実現できないのでたくさんのクリエイターさんらとともに歩んでいきたいと思っています。

クリエイターさんにとっては、私たちのような会社が併走させていただくことによって、より作品をおもしろく、より多くの世界中の読者へお届けできるよう全力で取り組んでいきたいです。

例えばこないだ、ファンギルドのBLがタイの電子コミックサイトでランキング上位に入ったんですね(タイはBLが盛んです)。そのとき、タイの読者がうちのBLをタイ語で読んでくださっている姿をわーっと妄想して、マンションの一室、休日の昼下がり暇な女子が1人で…みたいな(私の勝手な妄想です)なんだか猛烈にうれしかったんですよね。

そういうケースをこれからもっと増やしていきたい。
そしてクリエイターさんらとともに、各国で読んでくださっている読者の拡がりを喜びあいたいなと思います。

読者もうれしい、クリエイターもファンギルドもうれしい。

こういうことを世界中で増やしていきたいです。

物語の力は想像を超える

私はストーリーの力を信じています。
想像力やイメージを膨らませ表現すること、またその表現物を見聞きすることは、人生をとても豊かにしていくことだと思っています。

私自身が、亡き父は俳人、母は油絵画家、姉は漫画家…というような創作こそが人生最大の喜びというような人たちに囲まれて育ったのが影響しているのかもしれません。なので、創作者、表現者への尊敬、リスペクトは子供の頃からずっと心の根っこの部分にありますね。
 
ストーリーの力を信じている人たちは、もちろん私だけではなくファンギルドのメンバーもみんな共感してくれていると思います。

新卒採用の面接などでも「私はストーリーの力で救われました。これからは私が…」みたいなことを言ってくださる方がとても多いので、ファンギルドのミッションはわかりやすく人の心に伝わりやすいのかなと思います。

これからさらにこのミッションを極めていきたい、そんな心境です。
 
これからもファンギルドは、おもしろい(FUN)仲間たち(GUILD)と「ストーリーの力で、人生にFUNを。」お届けするために走り続けます!

どうぞ、よろしくお願いします。

(画像上:自画像/下:息子との1枚)

※この記事は、以前配信した「【代表挨拶】ファンギルドのDNAは、机2つから始まった」に新しく加筆修正・改変を加えた記事となります。


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