小説「海賊船の謎」4

「もしもし、天崎ですけど、恵さんいますか?」性にあわない敬語を使い電話をかける。おみくじを引くようにささやかな願いを持ち息を飲んで返答を待つ。
「もしもし?翔?」
どうやら大吉を引いたようだ
「なんだ恵かよ」
「なんだとはご挨拶ね、そっちから掛けてきたくせに」
電話先の彼女はプリプリ怒っている
「例の噂の件だけど…」
「なんかわかった?」
手に入れた情報を自信満々に言おうと思ったが恵の声の裏で発せられる怒声に気を取られる。
「今大丈夫?喧嘩?」 
家族崩壊の危機かもと思い最初の一言よりも恐る恐る口にした。
彼女は電話越しでもわかる笑みを含みながら
「違うわよ。お父さん!今は夏祭りの準備で張り切ってて、色々電話掛かってきて対応してるみたい」
「なるほど」
恵のお父さんは町内会長でこの時期は準備など大忙しらしい。
張り切ってるか..…
アタマカチワルゾって言葉が聞こえて来たような気がするが何かの方言かな?
「…まぁ大丈夫なら続けるわ、姉ちゃんが噂の海岸で海賊船見たって。」
「そうなの!?」
恵は素直に驚いている。
「それで、明後日の昼間なら車出してくれるって」
「本当!?オヤツ買っていくわ!」
「遠足じゃないんだから、まぁ食べるけど。」2人の期待感は増してきている。
「んでどこかで待ち合わせする?ハカセとは家近いんだっけ?」
「そうね、ウチは谷仲さん家の右に3件隣だから」
「谷仲さん?」聞きなれない名に聞き返す。
「谷仲さんよ。あの議員の親戚がいくつもいる」
この辺の地位の有権者なのだろうか?やはり聞きなれない。
「よく冬とか待ち合せ場所とかで使うじゃない?谷仲さん家の前に集合ねぇーって」
「いや、一般家庭の前を待ち合わせ場所にすんなよ」冗談と思い鋭くツッこむ
「それでハカセの家はどの辺?」
「ハカセの家は谷仲さん家の右に4件隣よ」
「いや、しつけぇよ谷仲さん家基準やめろ..…ってか、それって恵ん家の隣じゃね?」
「そうとも言うわね」
からかっているような、真面目に言ってるようなどちらとも考える平坦なトーンで返ってくる。
「まぁいいや、確か明後日の夜に恵の家で夏祭り委員会の会合があったよな?そのチラシが家にあったはずだからそれ見て迎えに行くわ。昼過ぎでいいか?」
「わかったわ。13時でよろしくね。」


そんなこんなで約束を取り付けた。
谷仲さんとは何者なのか?謎がまた増えていくがもう1人のパーティーメンバーにも連絡しなければいけないのでその疑問はそっと引き出しの奥にしまった。
「もしもしハカセ君いますか?」

ハカセの携帯電話に掛けてそう言うと、電話の先でハカセは何やら声を荒げているようだった。





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