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【有吉弘行の冠番組を語るシリーズ#4】有吉くんの正直さんぽ

有吉弘行の冠番組を語るシリーズの第4弾。

このシリーズでは、史上初めてNHK・民放キー局すべてでゴールデン・プライムタイムに冠番組を持った有吉さんの偉業を祝し、それぞれの見どころや番組ごとに異なる有吉さんのスタンスを個人的な視点で語っています。

第4弾として取り上げるのは『有吉くんの正直さんぽ』。

正直さんぽとは

フジテレビの土曜お昼からほぼ隔週で放送されているお散歩番組。有吉さんと生野陽子アナウンサーが、東京の下町や繁華街などをゲストと共に散策する。それぞれが街に対する印象や思い出を語ったり、途中で見かけたお店や景色に着目したりと、街ロケならではのラフな雰囲気で進む。

オシャレなカフェから高級フレンチ、その街ならではの老舗グルメまで、訪れる店の幅は広い。なので見てると思わず食べログに保存したくなる。実際これで知ったお店に何軒か僕も行ったことがある。最近は有吉さんもゲストも1軒目からお酒を飲むことが多い。

もちろん飲食するだけでなく、話題のスポットや体験型施設にも足を伸ばす。〇〇教室で何かしら創作をすることも定番。そこで有吉さんのセンスや意外なこだわりを垣間見れるのも面白い。
最新のトレンドに生で触れる機会は、街への知見や人間としての教養を高める上で、有吉さんにとっても非常に大切な時間になっているはず。


以下は番組を手がける永盛プロデューサーのインタビューでのコメント(抜粋)

「散歩番組にある種の違和感を取り入れたかった」

「当時、旅番組や散歩番組というのは、どこかほんわりとしたものが結構多かった。そこに、対極な芸風の有吉さんを入れたら、どんなコメントを言うんだろう、どんなリアクションをするんだろう…そんな、予定調和ではない散歩番組を制作したく企画しました」

「もちろん、ただ文句を言うとか、揚げ足を取るとか、そういう演出をしたかったわけではありません。ただ有吉さんの感性を楽しんでほしかった。実際、僕らから見たらただの看板でも、有吉さんは『なんだ、あの看板』って気づいてくれる。ベテランになればなるほど街ブラロケも定形になり過ぎて見逃してしまいがちですが、そこをある種、旅番組の門外漢だった有吉さんだからこそ気づいてくれて、これまでの街紹介とはまるで違うものにしたいという思いで始めました」

「僕も有吉さんと一緒に仕事をするのがこの番組が初めてだったので、当初は何を言うんだろうというヒリヒリ感はありました。
でも、10年やってきて凄く感じるのは、有吉さんは街が主役だと考えている。街や店に迷惑がかかることはしない。自分のキャラを突き通すこともしない。一人の人間として街を散策する。そういう意味でも“正直”なんです」

有吉さんのスタンス


全レギュラーの中でも1,2を争うほど有吉さんの毒気が無く、終始温和である。

番組が始まった当初はもう少し尖った一面も見せていた記憶があるが、ここ数年はさらに穏やかで落ち着いた印象。街ロケで一般の人とも多く関わる状況や、お笑いファン以外も多くが目にする土曜のお昼という時間帯を考えれば当然といえば当然。

ショーパンこと生野アナが一緒ならその言動に注文をつけたり指摘したりする姿が散見され、それもまた見どころのひとつではあるけれど、彼女が産休に入ってからはそんな場面も少なくなった。

ゲストによっては当たりの強いときもあるが、それは坂下千里子、シソンヌ長谷川さんといったような、跳ねっ返りでちゃんと面白くなる人を選んでやっている。つまりここでの有吉さんは他の番組に比べたら相当ソフト。かなり優しい。

例えば、ゲストには2組のうち1組は必ずといっていいほど芸人さんが呼ばれるが、『有吉の壁』等の他のバラエティでは手厳しい扱いをするのが普通なのに、『正直さんぽ』では優しい兄貴分といったコミュニケーションを取ることが珍しくない。というか、本来の有吉さんはこちらのほうがナチュラルなんだと思う。

ゲストの後輩芸人たちとの関係性


ここ最近でも三四郎、マヂカルラブリー、トム・ブラウンなど"壁芸人"が何組もゲストに来ていた。

他のド・バラエティでは見られない有吉さんとの絡みは新鮮なので見ていて楽しい。「この辺はくるの?」とか「休みの日は何してんの?」とか普通に有吉さんが後輩に質問する。これは当たり前のようで当たり前じゃない。

『有吉の壁』でもカメラのまわってない収録の前後で他の出演者とコミュニケーションを取ることは全然ないようだし、だからこそ何気ない雑談ひとつ出来るだけで後輩からしたら嬉しいはずで、僕みたいな視聴者だって見ていて嬉しい。

マヂカルラブリーと高円寺をまわった際には「高円寺芸人」でも知られる村上さんの前で高円寺をイジるようなコメントを繰り返して楽しくツッコませていた。

筋肉と笑いとゲーム以外に世間を知らない野田クリスタルに対しては、まるで面倒見のいい父親のような接し方(カレーもパクチーも苦手なのにスパイスカレーの店が一軒目で注文に戸惑う野田さんにも寛容だった)。あらゆる初体験に愚直なリアクションを見せる野田さんを微笑ましく見守っていた。


三四郎との散歩も毎回印象的だ。

有吉さんは品や教養のある人を好む傾向があるので、育ちの良い東京芸人・三四郎とは絡みも相性がいい。東京で生まれ育ってるだけあって街にも詳しい2人と下北をまわったロケは有吉さんも上機嫌だった。


余談だが、3人が立ち寄った下北沢の日記屋には僕も後日訪れて日記帳を買ったが、1ヶ月程度で見事に挫折した。

芸人絡みで印象的なのがもうひとつ。

錦鯉がM-1グランプリで優勝を果たした直後にゲスト出演した回だ。

当時どの番組に出演しても「おめでとう」「感動した」といったコメントのオンパレードだった錦鯉に対し、有吉さんは特に祝福するわけでもなく、普段通りの、なんなら少し雑な応対をしていた。

ところが後日談。

渡辺さんが夜会に出演した際。有吉さんからカメラのまわってないところで優勝のご祝儀を渡されたことを明かしたのだ。(番組名は明かしていなかったが、これがおそらく『正直さんぽ』)
渡辺さんはあまりに突然の出来事と粋なはからいに感激し、その後の収録で動揺を隠せなかったと言っていた。 

華を添える女性ゲスト

芸人さん以外でも番組に欠かせない常連の女性ゲストも何人かいる。

井森美幸と坂下千里子の女傑ツートップはその筆頭だろう。
有吉さんからもガンガンにイジられる一方、ちゃんと同じぐらいバラエティノリで有吉さんに反発できる稀有な2人だ。今年10周年を迎えた番組の記念オンエアでもこの2人が呼ばれており、全幅の信頼が寄せられていることが分かる。


藤田ニコル、河北麻友子、磯山さやかなど、有吉さんとは付き合いの長い女性ゲストも時折り登場する。そのときの有吉さんのリラックスして楽しそうな様子も見どころのひとつ。

コンビ10年!生野アナの存在


そしてこの番組における相棒・生野陽子アナウンサーの存在。

あらゆる女子アナとの名コンビが頭に浮かぶ有吉さんのキャリアでも、10年変わらず組み続けているのは生野アナ以外にいない。偉大だ。

あの夏目ちゃんや水卜麻美アナウンサーでも1つの番組でここまで長くは共演していない。それほど生野アナは有吉さんからも番組からも信頼されているのだろうし、必要な存在感を持っているのは間違いない。

生野アナは産休・育休で2019年に続き、今も番組を休んでいる。普通なら若手のアナウンサーやタレントに切り替わってもおかしくないのに、そうはなっていない。

新たなアシスタントを置かずに生野アナの復帰を待ったことについて、先ほどの永盛プロデューサーは以下のように語っていた。

「有吉さんと生野さんで『正直さんぽ』なので、代役という考えは私はもとより、有吉さんにもなかったです。ロケ終わりのロケバスで『生野の代わり、要らないよね?』『はい』で終わりました」

当の生野アナも2019年のインタビューにて当初の心境や有吉さんの凄さについてこう語っている。

「毒舌の有吉さんが正直に街をお散歩したらどうなるのだろう?という楽しみな期待感と、お店の方や街で触れ合う方々を怒らせてしまうのでは?と少しソワソワしたことを覚えています。しかし、街で出会う方々は有吉さんに正直なコメントをされて、うれしそうにしていらっしゃったり、特に女性から、背が高くて実物の方がカッコいい~と黄色い声もよく飛んでいます」

「記憶力がとてもいいことに、いつも驚かされます。2度目や3度目の街もあるのですが、お邪魔したお店やメニューを覚えているだけではなく、この道をこっちに進めばあのお店があるなど、1度しか行ったことのない場所も鮮明に記憶されていることがあります。

有吉さんは仕事に対して真摯で、優しく温かい方です。ゲストの方々に気楽にお散歩していただけるような雰囲気づくりや、嫌みのない正直さ、ハプニングを笑いに変えてくださいます。カメラマンさんがお仕事柄、足を痛めてしまった時も、いつもネタにしてくださいます」

10年も一緒に街ブラをしている生野アナだからこそ気付く有吉さんの魅力や意外な一面はたくさんあるのだろう。

少し前に過去の総集編が流れていたけれど、2人の関係性の良さを改めて見てとれた。お互い独身の頃には熱愛の噂も出たのも分かるほど距離感がナチュラル。

生野アナは出しゃばることなくアシスタントに徹することが出来るし、あっけらかんとした天然さもあって雰囲気が柔らかい。常に笑顔も絶やさないため、現場は明るくなるんだと思う。

そこに対する心地良さは『有吉の壁』でも組む佐藤栞里ちゃんにも通じるものがあるのかもしれない。

生野アナは夏目ちゃんとアナウンサーの同期で、有吉さん結婚直後には「だから嬉しい」とも話していた。
番組のテーマソングも2人で歌っているし、いつまでもこのコンビで番組が続いてほしい。

有吉さんに通ずるタモリさんの金言


有吉さんはプライベートでも1日10キロ〜20キロ歩くほどの散歩好きで、ここ数年は芸能界屈指の"散歩好き"としてもイメージが強い。『有吉クイズ』ほか別番組でも散歩にはよくスポットが当てられる。

公私共にすっかりウォーキングがライフワークになっている有吉さん。かつて猿岩石でのブレイク後、まったくテレビから姿を消し、ほとんど自宅マンションに引きこもるような生活をしていた時期を考えれば、本人からしても隔世の感がありそうだ。奇しくも今の街歩きで得ている情報は有吉さんの武器になっているし、教養の裏付けにもなっている。

街ブラ番組といえばタモリさんの『ブラタモリ』(NHK)も有名だが、かつて同番組でタモリさんの相棒役を務めたNHKの林田アナウンサーの番組卒業時のコメントが印象深い。

「タモリさんとは見ているものは同じだけど、"見えているもの"が違う。その差って何かというと、深く知っていること、視点を変えること、さまざまな視点を持つことだと知りました」

タモリさん本人の「教養はあるに越したことない。あればあるほど遊びの材料になる」という金言も知られるところだけど、いずれも有吉さんの話に通じてくる気がするのだ。

他の人が見てもなんとも思わないような場所でも、タモリさんの目を通すと地層、坂、暗渠、歴史と、あらゆるモノが見えてくる。見え方が変わってくる。

『正直さんぽ』が有吉さんでスタートした背景も、『有吉クイズ』での有吉さんへの密着が面白いのも、すべて有吉さんならではの視点や教養への期待だ。

有吉だからこそ見えるものがあり、それによって有吉さんにしか叶わない鋭利な言語化が可能となっている。それは街ブラに限らず、芸能界で有吉さんが再びブレイクを果たした過程にすべて根拠として繋がると思う。

誰もが突かれたくないような弱点や引け目を一瞬にして見抜き、シャープでキャッチーな言葉にして撃ち抜けるのは、独自に持ち合わせる視点と情報の賜物。それが番組の企画にも繋がり、今もなおテレビでもプライベートでも研鑽され続けているのだから、腕が落ちないわけである。

そういえばタモリさん繋がりでいうと、タモさんは「張り切らない。反省しない」というモットーがある。「やる気のある者は去れ」なんて言葉もある。

『正直さんぽ』においては有吉さんも、ゲストに若手芸人が来るとそんなふうに伝えていることがある。マヂカルラブリーのゲスト回でもたしか「そんな頑張んなくていいからね」みたいなことを序盤に言っていた。

テーマソングに「正直に 正直に」とあるように、自然体でリラックスして楽しむこと。ゲストにもそうしてもらうことが、有吉さんにとってのこの番組での1番のスタンスなのかもしれない。

お読みいただきありがとうございました。
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