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七ならべ自選十五篇 2023年7~9月

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からっぽなのに
溢れてしまう
そんなコップに
なにを注ごう
土曜を隠す
分厚い雲に
呟いてみた
それは誰にも
教えてなくて
ひとに伝える
ことでもなくて
つぎ晴れた日に
あなたのこころ
くすぐる風が
吹けばいいなと
願ってたんだ
コップは今も
からっぽのまま
満たされている
(2023年7月1日)




彷徨うことも
許されないし
素直になれず
夜はみじかい
どうしたいのか
わかってるのに
わざと視線を
逸らしたままで
木彫のクマを
演じてみても
どうせそんなの
見破られてる
撮った写真に
ゆびが写れば
それ送るから
指切りしよう
(2023年7月4日)




星の悩みを
見ないふりして
夜の重さに
押しつぶされる
ないしょばなしを
無理にごまかし
似たような夢
みるのであれば
夜通し傍に
いたほうがいい
些細なことで
拗れちゃうのは
意識している
証拠なのかな
ぼくが笑うと
星はふくれた
(2023年7月5日)




それは何色?
食べられるもの?
味や匂いは?
どこに売ってる?
膨らんでゆく
夏の亡霊

夏はいつでも
記憶の奥に
青地に白く
描かれている
だけどそれらは
記号に過ぎず
夏によく似た
火かもしれない

生身の夏を
ぼくは知らない
(2023年7月10日)




遠い街から
声が聞こえる
はじめは弱く
徐々に大きく
耳をすませば
七色のうた
目立たないけど
響く鈴の音
静かな夜に
身を投げ出して
きみがいること
感じられたら
夏の企み
バレちゃっていい
(2023年7月19日)




止むことのない
月のしずくが
夜更けの部屋を
支配している
驚愕でなく
恐怖でもなく
心音に似た
確からしさに
使う前置詞
間違えたけど
夢のたまごを
放置したまま
朝が来るまで
唱え続けた
夏の文法
もう覚えては
いないだろうな
(2023年8月2日)




巻き戻せない
カセットテープ
ダッシュボードに
そのままにして
あの過ちの
影のながさを
思い出そうと
夜に彷徨う
レモネード持つ
右手はやがて
あたたかいもの
求めだすから
先回りして
サブスクにない
夏の記憶を
手当たり次第
呼び戻すんだ
(2023年8月6日)




微熱のなかで
夢をみたんだ
ことしの夏は
ことし限りと
そう言われると
急に時間が
愛おしくなる
ポップコーンが
なくなる頃に
笑いあえたら
ただそれだけで
ことしの夏を
描ける気がする
(2023年8月6日)




スマートフォンの
隠し機能で
過去のことばを
書き換えてみた
消せない過去を
消してしまえば
ぼくの居場所は
なくなるけれど
それであなたが
救われるなら
それでもいいと
思ってたんだ
記憶はやがて
あいまいになる
記録はいつか
粉々になる
過去にすがって
生きているのは
くだらないとは
わかっていても
居心地の良い
場所がそこなら
干し草敷いて
星に沈もう
(2023年8月10日)




夏は記憶で
出来ているから
大事なことが
あやふやになる
秘密の会話
重ねていれば
甘いことばに
汗が流れる
それが夢にも
現れるから
夢と現実
区別もせずに
あの夏の日も
シャツを濡らして
熱れるように
泣いていたっけ
(2023年8月22日)




休みの朝は
公園に行く
ただぶらぶらと
歩いていると
いろんな人が
いろんな顔で
朝の空気を
吸い込んでいる
皆それぞれに
大切なもの
抱えて生きて
たまには深く
息したいよね
そんな景色に
埋もれていたい
みんなのうたに
溺れていたい
(2023年8月27日)




夜更けの街に
月のため息
浮かれた人は
気づけないけど
ひとりの部屋の
窓をすり抜け
月の嘆きが
頬に伝わる
サビの部分が
わからないまま
今年の夏も
去って行くけど
ひみつの場所に
赤い電車で
行った日のこと
書き留めたまま
月には甘い
お願いをする
(2023年8月31日)




夏の終わりに
雲が表情
変えてゆくのを
アイスコーヒー
片手にぼくは
ただ見送って
かけることばも
思いつかない
秋は手元を
奪い取るから
属性のない
色とかたちが
残されるだけ
案外それが
あたたかいだけ
(2023年9月2日)




祭りの夜の
小さな嘘が
季節の色を
塗り替えている
明後日からは
知らない人に
戻るだけだと
きみは言うけど
お好み焼きが
覚めないうちに
もう一度だけ
くじを引かせて
嘘のままでは
終われないから
(2023年9月9日)




混じり気のない
空を見たくて
干した布団の
となりに座る
夏の背中は
ぼくの記憶に
一枚の絵を
残していった
それは切ない
夕景だけど
きみの気配が
吹いてくるから
ことばを秋に
ふわり手放す
(2023年9月11日)


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