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七ならべ自選十五篇 2023年4~6月

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守るものなど
ないはずなのに
守ろうとする
癖が抜けない
地震・かみなり
家事するオヤジ
どれも愛しい
存在だから
ぼくたちはただ
見ていればいい
明けない夜も
たまにあるけど
ぼくたちはただ
見ていればいい
海の底にも
空はあるから
(2023年4月1日)




西日眩しい
待合室で
歯を抜く時が
近づいてきた
ぼくの一部が
ぼくでなくなる
その瞬間が
やけに眩しい

そして抜かれた
歯を見せられる
ぼくを離れた
そのかたまりは
他人行儀な
顔をしていた
ぼくはどこまで
ぼくなのだろう
疼きはじめて
ロキソニン飲む
(2023年4月10日)




風のこどもが
迷子になった
寂しいまちで
寂しく泣いた
夜の気怠い
窓に紛れて

風吹く夜に
眠れないのは
ぼくのガラスも
風のこどもで
出来ているから
迷子のぼくは
どこかの窓の
ひつじになって
だれにも夢を
みせることなく
果てるのだろう
(2023年4月21日)




音をなくした
日曜の午後
やわらかな詩を
お茶で飲み干す
思考と頭痛
その両方が
時の流れを
弱めてくれる

黄昏時は
箸置きのよう
居なくなっても
違和感がなく
困らないまま
明日は来るから
いまは儚い
文字に沈もう
(2023年4月23日)




傾いた日の
想い出だけど
部屋に置くには
もったいなくて
助手席に乗せ
海へと走る

きみと一緒に
来たかったけど
いつかはきみも
ここに来るから
この旋律を
分け合えるはず

風の匂いが
硬すぎるから
Ifが多めの
むかし話は
尻切れのまま
砂に紛れる
(2023年4月28日)




花に生まれて
花として散る
ただそれだけの
奇跡の裏に
花弁を散らす
風の苦しみ

花がきらいな
風などいない
散らす役目は
担いたくない
それが本音で

花が散るのが
運命ならば
散らせる風も
運命だから
その役割を
演じ切るだけ
ようやく風に
なれたのだから
(2023年5月4日)




ひとりの庭に
落ちてきた星
か弱く光る
紫陽花のかげ
触れてしまえば
飛び出しそうで
見守るだけの
夜だったけど
いつしかぼくの
胸のあたりに
同じかたちの
星が生まれた
きみのことばに
惹かれちゃうのは
星に具わる
引力のせい
(2023年5月12日)




キリマンジャロの
場所を教えて
目を合わせずに
きみがつぶやく
とりあえずいま
気になることは
きみのあたまに
浮かぶことばが
何文字なのか
四文字ならば
ぼくは消えるし
五文字だったら
この星空を
切り裂くだろう
きみは答えを
明かさないまま
キリマンジャロは
夜に紛れた
(2023年5月18日)




坂をのぼれば
異世界がある
知らないものに
憧れるのは
生きているなら
当然のこと
坂の向こうに
広がっている
森や畑や
空を見たくて
でも簡単に
近づけなくて

ぼくは死んだら
雲になるから
坂の向こうに
惹かれてしまう
坂は人生
そのものだから
味わうように
進むしかない
坂の途中で
見える下界は
のすたるじぃの
みずうみだった
(2023年5月23日)




ひとつ残った
クリームパンが
テーブルの上
西日を浴びる
去る寂しさと
残るつらさと
比較するのは
意味ないけれど
自分の価値が
認められない
そんなつらさが
夕陽に溶ける

クリームパンの
かなしい顔が
鏡に映る
ぼくに似ていて
ぼくは自分を
食べたくなった
(2023年5月23日)




星になるため
この町にきた
二年経っても
宙に上がれず
ことばの海に
沈んでしまい
ほんとうこと
忘れかけてる

澄んだ夜空を
どれだけ観ても
ぼくの居場所は
どこにもなくて
靴もかばんも
投げ捨てた手で
すっぱいぶどう
あつめて眠る
(2023年5月31日)




死の入口は
急に電気を
つけたみたいに
目が慣れるまで
何もみえない
かたちも色も
定まらなくて
あらゆるものが
安定しない
やがて目が慣れ
世界が見える
そこに真っ赤な
花があるなら
それが来世の
種を産みます
(2023年6月7日)




三日月ならば
座れるはずと
幾多の魔女が
試してみても
ひとりたりとも
座れなかった
あの曲線に
魅せられるのは
ひとであるなら
当然のこと
だから今夜は
誰も知らない
呪文唱えて
月に本音を
吐かせてみよう
案外それが
恋のはじまり
かもしれないし
(2023年6月21日)




ラムネの瓶が
涙の色で
出来ているのは
星がねがいを
捌ききれずに
漏れ落ちたのが
ビー玉だから
悲しみだけを
集めるクマが
森に隠して
森が泣いてる
星も泣き出し
ぼくも泣くから
誰も知らない
流星が降る
(2023年6月22日)




シロツメクサが
一面に咲く
午後の公園
おしりの下が
ふかふかしてて
泣きそうになる
みつけたくても
みつけられない
やわらかな場所
こんなところに
あると知らずに
たった今まで
無駄に吠えてた
蒼い記憶を
染み込ませたら
道理が枯れた
戦場に行く
(2023年6月27日)

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