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2023年9月(上期)の七ならべ

※ここでは、七音のフレーズのみで構成された詩形式を「七ならべ」と呼んでいます。
Threads(一部はX)にあげたものを再掲します。



九月は崖だ。

油断してると
海は本気の
群青になる
今まで何度
騙されたのか
それでも夏の
欠片をあつめ
まだ行けるぞ!と
声がかかれば
やっぱり油断
してしまうんだ
崩れるように
堕ちてゆくって
わかっていても
あまい夜には
引力がある
(2023年9月1日)


夏の終わりに
雲が表情
変えてゆくのを
アイスコーヒー
片手にぼくは
ただ見送って
かけることばも
思いつかない
秋は手元を
奪い取るから
属性のない
色とかたちが
残されるだけ
案外それが
あたたかいだけ
(2023年9月2日)


きつねうどんが
苦笑いする
日曜の夜
化けることなど
できないくせに
描き上がらない
絵を待っている
あしたになれば
いまとは違う
顔をつくって
戦場に行く
それでも多分
絵は未完成
戦場はまだ
塩辛いまま
(2023年9月3日)


去年の秋を
思い浮かべて
月は哀しい
器だと知る
どんなに色を
塗ったとしても
雲の向こうで
洗われるだけ
静かな夜に
耳を澄まして
ぼく以外には
だれも居ないと
確認したら
記憶が徐々に
痩せ細る中
届くことない
電文を読む
(2023年9月4日)


夜の長さが
落ち着かなくて
いじわるな歌
口ずさんでる
本音は違う
カップの中で
声も出さずに
口づけを待つ
そんな遊戯が
駆け引きならば
どれだけ夜が
長くなっても
最後の文字を
見つけられない
(2023年9月5日)


秋の目次を
眺めていると
寒暖の差が
激しすぎると
知ってしまった
彼女はいつも
温かいから
つめたい肌を
知らないままに
生きていこうと
小声で誓う
時間はふいに
速くなるから
明朝の詩も
書けないくせに
時刻表には
真っ赤な文字で
や・く・そ・く とだけ
記されている
(2023年9月7日)


祭りの夜の
小さな嘘が
季節の色を
塗り替えている
明後日からは
知らない人に
戻るだけだと
きみは言うけど
お好み焼きが
覚めないうちに
もう一度だけ
くじを引かせて
嘘のままでは
終われないから
(2023年9月9日)


混じり気のない
空を見たくて
干した布団の
となりに座る
夏の背中は
ぼくの記憶に
一枚の絵を
残していった
それは切ない
夕景だけど
きみの気配が
吹いてくるから
ことばを秋に
ふわり手放す
(2023年9月11日)


夜風がすこし
やさしくなって
青い季節の
終わりに気づく
プレイリストの
いちばん上に
思い出のない
曲を置いたら
鎮まっていた
後悔の尾が
暴れ出すから
ピアノ独奏
ばかり集めて
余韻忘れた
夕陽の痕が
帰路に付くのを
ただ追いかける
(2023年9月13日)


ひみつの地図を
夜風にひろげ
行きたい場所に
チョコチップ置く
ほんのり苦い
恋のくびきが
乾いた部屋に
再現されて
今はもうない
歌番組が
思い出された
旅はいつでも
始められるし
終わらせられる
今夜はそれを
人生と呼ぶ
(2023年9月15日)

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