見出し画像

図書館司書が頭を悩ませた「手薄ジャンル」のおはなし

こんばんは、古河なつみです。
私は図書館司書をしていた時に、様々なレファレンス(調べ物の相談)を受けていました。その中で先輩から何度も指導を受けたのが「簡単にギブアップしないこと」……つまり「そういう本はなさそうですね~」とすぐに答えてしまうのはダメ! という事でした。(※レファレンスに対するスタンスは各図書館によって様々なので全ての司書がこういう行動理念で動いている訳ではない事はご了承ください)

先輩の教えに私も共感できたので様々な調べ物をしていたのですが、いくら司書が一生懸命探しても、求めている内容が書かれた本がこの世に存在しない場合はギブアップするしかありません。稀ではあるのですが、流行り廃りの激しいジャンルや、インターネットの発達によって出版という形で情報が提供されなくなった事例に遭遇して悩んでしまった時の事をお話したいと思います。



①「最新の」フォークダンスの踊り方が載っている本

図書館と一緒に併設されている事が多い公民館や体育館ではサークル活動をされている高齢者の方がたくさんいらっしゃいます。その中でフォークダンスを趣味にしているおばあちゃまから「今日、サークルで先生から習った○○○の踊り方が載っている本はあるかしら? 映像も付いていると嬉しいんだけれど……」という相談を受けた事がありました。

フォークダンスを図解した大人向けの全集のような資料は『世界のフォークダンス』シリーズ(日本フォークダンス連盟編/不昧堂出版)くらいしか見た事がないなぁ……と思いながら調べると、2000年前後を最後に図書館が所蔵できそうな大人向けのフォークダンスの本の出版がほぼ途絶えていました

児童向けの資料や、高齢者施設でのレクリエーションを意識した資料は何冊か2000年以降も出ているのですが、掲載されている内容はオーソドックスなフォークダンスがメインで、今もサークル活動をしているおばあちゃまが求めている「最新のフォークダンス」の内容は見つかりませんでした。

すると疑問が出てきます。
じゃあ、おばあちゃま達に最新のフォークダンスを教えている先生はどこからその情報を仕入れているのでしょうか?

答えは無料で見られる映像の宝庫「YouTube」とDVD資料です。
動作を説明する上で書籍は映像に勝つ事が出来ません。DVDが安価になり、インターネットの動画サイトが一般的になったのも2000年代以降なので、フォークダンスは動画で覚えるもの、という考えが広まって書籍への需要が落ちたためにフォークダンスの関連資料が紙の書籍として出版されなくなったと考えられます。

私がこのレファレンスを受けた時もYoutubeに探していたフォークダンスの踊り方の動画があったので紹介はしたのですが……

利用者さんごめんなさいねぇ、パソコンはちょっとわからなくて……

という、情報は存在するものの相談者の方がそれにアクセスできない事例だったために「回答できず」という結果になる事があります。

そして、この時に勤めていた図書館にはパソコンの閲覧コーナーがあったものの「ログイン機能のついているサイトは弾く」というロックがかかっており、図書館の中のパソコンで動画を見てもらう事もできなかったので、とてももやもやした結果に終わってしまいました。

②とある難病について掲載されている本

フォークダンスの事例と同じような状況でしたが、これはもう少し逼迫した事例です。

ある日、「とある難病(個人情報なので病名は伏せています)について調べたい」という問い合わせがありました。詳しいお話は聞けませんでしたが、どうやらご家族にその病気が告示されたようでした。

(※図書館の司書は医学的な治療に関わるアドバイスをする事は禁止されていますが、病気の内容について知るための本を探すのであればお手伝いをする事が出来ます。)

当初は「病気や難病の事典は何冊もあるし見つかるはず!」と調べ始めたのですが、お問い合わせをいただいた病気があまりにも症例が少なく、治療方法もなく、はっきりとした原因も不明で、研究も進んでいない難病だったために、そもそも掲載されていない(あるいは病名だけが記載されていたり、数行だけ記載がされている)資料ばかりで、その難病の正確で詳しい解説を知るには「難病情報センター」のサイトを閲覧するしかないという結果になりました。

その方もご高齢で最初から「インターネットは分からないので……」と仰っていたのに「ネットで見てください」としか言えない事例で、何とも歯がゆい思いをしました。

正しい対応だったかどうかは分かりませんが、代案として難病の方が受けられる公的支援の手続き方法や、ご家族の方へのフォローについて記載されている資料をお渡ししました。

その方が俯きながらも、ありがとう、と言ってくださったのが印象的で図書館司書を辞めた今でもふと思い出す事があります。

今はペーパーレスが主流となり、その流れを否定するつもりは全くないのですが、少なくともあと20年ほど(2040年代)はデジタルを扱えない高齢者世代が情報にアクセスする手立てを作っておいてほしい、と強く感じた事例でした。


③ゲームで勝つ方法が知りたい!

ちょっと重たい内容になってしまったので、最後はくすっと笑ってしまった事例を紹介します。

図書館によく遊びに来てくれる小学校低学年の男の子から「ポケモンで強くなる方法を知りたい!」という相談を受けた事があります。

男の子「友達とバトルするとすぐ負けちゃう」
私「そっかー、レベルは一緒くらいなの?」
男の子「こっちのが強いのに!」
私「不思議だねぇ~(ゲームの攻略本は置いてないしどうしよう……!)」

すると、隣のカウンターにいた同僚が口を開きました。

同僚「どんなポケモンで戦ったの?」
男の子「(ポケモンの名前を言ってくれました)」
同僚「相手の子は?」
男の子「(これも素直に答えてくれました)」

その後もいくつか質問が続いた末に同僚はこう言いました。

同僚「相手のポケモンに攻撃された時「こうかはばつぐんだ!」って何度も出てこなかった?」
男の子「出た! こっちの時全然出ないのに向こうばっかり出る!」
同僚「ゲームの最初の方で「相性」って説明あるよね?」
男の子「うん。でも多すぎて覚えらんないし何でそうなるのかよくわかんない」
同僚「炎タイプが草タイプに強いのは、草は炎に燃やされちゃうからなのは分かる?」
男の子「うん。でも炎が……えっと、鋼と……」
同僚「確かに固~い金属の鋼がどうして炎に負けるのかはちょっと考えないとわからないかもね」
男の子「なんで負けるの?」

すると同僚は児童向けの科学の本のコーナーに歩いていって色々な実験の載った本や元素図鑑を見せ始めました。

そして30分くらい話し込んだ末に目をキラキラさせた男の子へ科学の本を貸し出して「頑張ってね~」と見送っていました。

私「相性とか、懐かしいですね。ゲームボーイアドバンスから先の事はよく分かってないんですけど……」
同僚「僕、まだ現役で。昔よりもタイプが増えて複雑化してるんです。とはいえ大体物理法則にちなんでるのでちょっと物質についての知恵がつけば楽勝ですよ」

まったりした図書館に配属されていた時の出来事なので、ここまで親身になってくれる司書は少ないと思いますが、ゲームの攻略本は提供できないけれど、考え方を調べる方法を教えられる場合があるのだと非常に驚いた事例でした。(※この件は司書の資質というよりは、レファレンス内容と司書の得意ジャンルが重なった時に偶然案内できるようなタイプの質問なのでお近くの図書館でこういった案内はあまり期待しないでくださいね……!)

改めてまとめると、ゲームの攻略本やアニメの公式ガイドブックなどが図書館で所蔵されているケースは稀です。もしも所蔵があったとすれば寄贈本だと思われます(代わりにアニメディアやニュータイプといったアニメ雑誌を定期的に購入している図書館はあります)。

かなり長くなってしまいましたね……!
ここまでお読みくださりありがとうございました。
それでは、またの夜に。

古河なつみ

まずはお近くの図書館や本屋さんをぐるっと回ってみてください。あなたが本と出会える機会を得る事が私のなによりの喜びであり、活動のサポートです。